国道の手前 駅前の信号 いつもより少し長い 前の学生が 片方だけ靴紐を結び直す 犬が電柱を嗅ぐ 宅配便が曲がってくる 自転車のベルが鳴る 全部どうでもいい 全部どうでもいいから おそらく 面倒な事が起こりそうだ 一本遅い電車 いつもの席には 知らない男 新聞を四つ折りにして 世界情勢を 器用に手のひら二つ分に収めている 俺は立ったまま さくやのメッセージを読む 「また明日」 明日になった さて 昨日の明日は本当にこの今日なのか 偶然を必然に仕立てる理屈なら 酔ってても案外簡単 三分遅れた電車のリズムから ズレたままでだいたい散々 青信号まで何歩か数えて まだ見ぬ分岐を勝手に算段 右へ行く俺 左へ行く俺 互いに知らん顔して淡々 可能性だけポケットに詰め込んで 頭の中だけ妙に満タン ラプラスの悪魔に電話をかけても たぶん話しちゅう、それが難関 原因、結果、原因、結果、延々続けりゃ誰だって判断 始点を探して終点を忘れる 学者も酔っぱらいも結局は同じ 算段 信号を渡る途中で 名前を呼ばれた気がした 振り返るが誰もいない まあ そうだろう でも あそこで振り返らなかった俺も どこかにいるんだろうか そいつは今ごろ 何を食ってる ちゃんと寝てるか まだ煙草を吸ってるか あの電話に 出たのか 出なかったのか 知らない 知ったところで 明日のゴミ出しには 間に合わない 目と鼻の先で 青信号が赤になる 手を伸ばす前に 今日の事情が過去になる たった一度の遅延 予定表から人が消える 勝手に意味を付け 因果律だけ息を切らせる 選ばなかった方を 知らないくせに悔やんでる 時計ばっか見てる 未来のふりした過去を待ってる 原因を辿れば 出生まで戻れそう 神様もたぶん途中で 「そこまで聞いてない」と言いそう 始点から終点まで 帳尻を合わせたがる 人間は偶然まで 自分の伏線にしたがる 因果律にも サブロク協定が必要かも そのくらいにしとけよ 全部お前のせいじゃない ――と思ったところで 鳴るはずのない番号から 電話が鳴った 七時四十二分 トーストを焦がして 三歩戻って 一本遅れて 十円を疑って 名前を呼ばれて 振り返った それだけだ それだけのことを 俺はまだ 偶然と呼んでいる