
[Verse 1] 午前零時を少し過ぎて 洗いかけのカップを伏せた 冷蔵庫の音が止まったところで 昨日あなたが教えてくれた歌を開く 「たぶん好きだと思う」 それだけ添えられたリンク 何が、とは聞かなかった 聞けば何かが決まりそうだったから リンクを開いて十一秒 まだ再生を押せずにいた [Pre-Chorus] イヤホンの左を直して 再生ボタンを押す あなたが今どこにいるかは 知らないままでいい [Chorus] 同じ夜に 同じ歌を聴いていても 同じところにいるわけじゃない あなたに先に届いた声が 十一秒遅れて 私にも届く それをつながりと呼ぶには たぶん少し足りないけれど 言葉にならなかったものほど 長く残ることがある 歌が終わったあとにも まだ 残響みたいに [Verse 2] あなたの部屋にも窓があって 今夜も少し開いているだろうか 充電しながら横になって 途中で画面を伏せるだろうか そんなことを考えるくらいには あなたの癖を覚えている でも「会いたい」と打つほどには 何も決められていない 二番の途中で 歌詞に「声」という字が出てくる 私はそこで一度止めた 理由は自分でも分かっている [Pre-Chorus] 再生し直したせいで 十一秒は もっと開いた 同じ歌だったはずなのに もう同じ時間ではない [Chorus] 同じ夜に 同じ歌を聴いていても 同じところにいるわけじゃない あなたがもう通り過ぎた言葉を 私は今さら 拾っている それでも声には 距離を知らないふりができる 言えなかったことだけが 音の隙間に置いてある あなたのものでも 私のものでもない顔をして [Bridge] 「今、この歌聴いてる?」 そこまで打って 送らずに消した もし同じ頃 あなたも何かを消していたとしても それを確かめる方法はない だから今夜のことは 何も起きなかったことになる たぶん それでいい [Final Chorus] 同じ夜に 同じ歌を聴いていた 私はそれを知らない あなたもきっと知らない 四分二十七秒のどこかで 同じ声に名前を呼ばれたような気がして 私は少しだけ 音量を上げた どこかであなたも 音量を上げた気がした [Outro] それをつながりと呼ばなくてもいい 恋だと決めなくてもいい 言葉にならなかったものには 言葉にならないままの長さがある 曲が終わって 部屋は元の静けさに戻る 私は画面を閉じる あなたへのメッセージは 今日も増えていない ただ 再生履歴に 同じ歌がひとつ残る それだけが 今夜の残響

