
むかし むかしのそのまたむかし 白い雪より白々しい おとぎ話がありました けれどわたしは りんごをかじらなかった 毒りんごを食べない 甘言なんぞに用はない ひとくちかじれば 愛される? ずいぶんと安い身の上ね 喉を潤す蜜より 苦い青汁選びましょう 生きる理由なんて 別段 欲しくもない 森へ行かない 迷子になる趣味もない 獣がいるとか 魔女がいるとか 罠張ってるのに行かない 木霊のざわめきに 運命を聞き取るほど わたしは忙しくない 道があるからって 歩く義務はないでしょう まともな王子なんかいるの? 白馬にも興味はない 眠ったふりをして 誰かの口づけを待つなんて そんな都合のいい女に なるくらいなら 目を開けたまま 爪を立てていたい わたしは 選ばなかった りんごも 森も 王子も 鏡も 差し出された運命を ありがたく頂戴するほど 素直じゃない 十字路の真ん中で 赤信号を睨みながら 行かない 戻らない 決めない それでも わたしの人生だ 鏡に答えを求めない 「一番美しいのは誰?」 知らないわ そんな番付 美しさなんて 見るものの舌先ひとつ 昨日のわたしを醜いと言った口で 今日はわたしを愛してるというのでしょう ならばわたしは どちらにも頷かない 選ばなかった道には 選ばなかったわたしがいる りんごを食べたわたし 森へ消えたわたし 王子に微笑んだわたし 鏡に縋ったわたし 四人とも きっと幸福だったのでしょう あるいは 四人とも不幸だった でも わたしは知らない 知らないままでいい 毒りんごを食べない 森へ行かない 王子を待たない 鏡に答えを求めない フラグを立てなければ 回収する必要もない 運命という名の筋書きに 勝手に和訳をされるくらいなら わたしは何も起こさない 何も始めない 何も終わらせない そうして初めて わたしはわたしを選ぶ むかし むかし 白雪姫は幸せになりました めでたし めでたし ……なんてね。 わたしは そのページを閉じた。
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