薄い春のコートじゃ 防げないビル風 期待で膨らませた 風船が萎んでいく音 すれ違う人の言葉が 全部テレビの中みたいで 聞き取れるのに 意味だけが頭を滑り落ちる 複雑すぎる路線図 指でなぞって立ち尽くす 舌打ちが聞こえた 誰かの邪魔をしたらしい 記憶の地図なら 星が見えた時間だ ここでは夜空さえ ビルの隙間の黒い切り抜き ここは 巨大なジオラマ 誰も僕を知らない 僕も誰も知らない 自由になれたはずなのに 手足がこんなに重いなんて 荷札のついたままの部屋に 逃げ帰りたい 「夢」なんて言葉で 片付けるには夜が長すぎる 電子レンジの音が やけに部屋に響くから 逃げるように テレビのボリュームを上げた 温めた夕食の湯気だけが 唯一の話し相手 味のしない栄養を 喉の奥へ流し込む 通知が光る 手のひらの同窓会 「東京はどう?」なんて 無邪気な文字が並ぶ 本当のことなんて 送信できるわけない 「最高だよ」と打って 指先が少し震えた ここは 出口のない迷路 誰もが何かを演じて 僕もそれを真似ていく 憧れていた景色は 書き割りの背景 触れようと手を伸ばせば 冷たさだけが指に残る 帰り道のルート検索 「帰るべき場所」は消せなくて 壁の薄い隣の部屋 誰かの笑い声 その幸せが 僕を責めている気がした 電気を消しても 外の明かりが天井を這う 眠れない まだ僕は 何者でもないから ここは 巨大なジオラマ 泣いても誰も気づかない だからこそ噛み締める 「寂しい」と思えるのは あの日々が暖かかったから 荷札のついたままの部屋で 膝を抱えて朝を待つ 微熱のような希望が まだ胸の奥でくすぶってる 今日がまた始まる まだ ここにいる
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