
生まれた日の僕の手は 父の指さえ余るほど 何も持たず 何も知らず ただ温もりだけ握ってた 泥だらけで帰った日 鉛筆を握った放課後 初めて働いた給料を 母の手のひらに少し置いた この手は ずっと覚えてる 写真に残らないことばかり 掴んだものより 触れたものが 僕を僕にしてきたんだ 転んだ誰かに差し出した手 重たい荷物を半分持った手 言葉じゃどうにもならない夜 黙って背中を支えた手 大事な日の始まる前 仲間と手を重ね 円陣を組んだ 震えていたのは僕だけじゃない 「行くぞ!」の声で強く握った そしてあの日 小さな指輪をつまむ手が どうしようもなく震えてた 大事な君の薬指へ ゆっくり ゆっくり通した 泣いていたのは君なのに うまく笑えなかった僕 あの日いちばん幸せだったのは たぶん 僕のこの手だった やがて小さな手が 僕の人差し指を握った こんなに弱い力なのに もう離せないと思った 熱を出した夜は額に触れ 転んだ膝には絆創膏 いつしかその手は大きくなって 僕の手なんて振りほどいて走った それでいい それがいい この手は何度も間違えた 離してしまった手もあった 届かなかった手もあった それでも誰かを助けた温度は 今も掌に残ってる 気づけば節も太くなって 昔より皺も増えていた 隣を見ると 君の手にも 同じだけ時間が刻まれてる 「あの頃より古くなったな」 そう笑って手を重ねたら 薬指にはあの日の指輪 ずいぶん古くなった でも よく働いた手だ 誰かを抱いて 誰かを支えて 誰かと重ねて 誰かに振って 最後まで 何ひとつ持てなくなったとしても 僕が生きた証拠は 鏡の中じゃなく この両手に 残っていた

