
■ 蟻-アリ-(三郎版) ギャクストーリー
■ギャクストーリー 午前 6時 2分。K2区・第102穴・第3 居住区画。 蟻の三郎は目を覚ました瞬間、頭上のスピーカーから流れる 自治ニュース速報 1chを耳にして盛大にため息をついた。 「本日の殉職者数・276匹。産卵数・681匹。 羽化数・5 匹。なお天気予報は 3chにて——」 276匹。昨日より14 匹増えている。 「また増えてんじゃねえか」と三郎は呟いた。 「俺たちが地上を支配してるはずなのに、 なんで毎日に276匹 死んでんだよ」 隣の寝床から先輩のハチ郎が億劫に触角を動かした。 「数で勝負してんだから仕方ねえだろ。 1分1秒が命の分かれ目なんだよ、俺たちは」 「それってつまり負けてるってことじゃないですか」 「違う。勝率 3%を積み上げてるんだ。長期戦略だ」 三郎には全く意味がわからなかったが、 とりあえず起き上がることにした。 今日も地上任務がある。 地上は恐ろしい場所だ。 三郎は出動前のブリーフィングで改めてそれを叩き込まれた。 「いいか。地上には敵しかいない」 と教官のクロ長が言った。 「人間。鳥。他の虫。同業者も含む。全て敵だ」 「同業者も、ですか」 「特にアイツらはタチが悪い。 顔が似てるからって油断するな。やられる」 「では味方は?」 クロ長は少し間を置いた。 「…女王様だ」 「それだけですか」 「それだけだ。一匹は皆の為に、皆は一匹の為に。 女王様 推定 18歳。守れ。以上」 三郎は「推定って何だ」と思ったが黙っておいた。 地上任務 15ふんめ。 三郎は砂糖のかけらを発見し、 意気揚々と運搬を開始した。 そのとき足元に異様な粘着感を覚えた。 ガムだった。 三郎の前脚 2本が完全に沈んだ。 「ッ……想定外だ……!」 ガムは設定ノート上で「気象兵器」と同列に記載された、 蟻族公認の最凶兵器である。 もがけばもがくほど脚が取られる。 三郎は走馬灯のなかでボンタンアメのことを思った。 オブラートの中身だけを舐めた、あの甘い午後を。 そこへ突然、巨大な影が差した。 人間の子どもだった。 三郎は全力で殺気を飛ばした。 しかし子どもはニコニコしながら指を伸ばしてきた。 捕虜か、死刑か。 走馬灯が加速した。 翌朝 6時 2分。1chニュース速報が流れた。 「本日の殉職者数・277匹——」 三郎の寝床はカラだった。 ハチ郎はしばらくその空き寝床を見つめてから、 静かに呟いた。 「…また 1増えたな」 そして何事もなかったように寝返りを打った。 「数で勝負してんだから仕方ねえ」 合言葉は、一匹は皆の為に。皆は一匹の為に。 ただし殉職者数は、今日も更新中だ。

