
まだどこでも自由に タバコが吸えた頃 まだ新宿駅のホームに 喫煙所があった頃 まだ携帯電話と呼んで Eメールを送ってた頃 まだ手を挙げて タクシーを止めていた頃 まだ予約をせずに 窓口で映画のチケットを買っていた頃 まだ駅の伝言板に 名前を書いて待ち合わせた頃 まだ知らない番号からの電話にも とりあえず出ていた頃 まだ電話番号を いくつも覚えていた頃 まだCDを買って 歌詞カードを開いていた頃 まだ好きな曲が流れるまで ラジオの前で待っていた頃 まだ写真を撮るたび 残り枚数を気にしていた頃 まだ知らない街では 地図を広げて歩いていた頃 あの日の僕らは 何も失っていなかった 失うものが まだ何なのか 知らなかった まだ約束を 手帳に書いていた頃 まだ待ち合わせには 少し早く着いていた頃 まだ君からの電話を 着信音だけで 聞き分けていた頃 まだ夜が長くて 帰り道さえ 終わってほしくなかった頃 便利になった街を 今日も歩いている 知らないことまで すぐに知れるようになった 会いたい人には いつでも会える 見たいものは いつでも見られる それなのに ふとした瞬間に もう二度と 戻れないものだけが 鮮明になる なくなったものを 惜しんでいるんじゃない ただ なくなったものが 確かにあったことを 覚えている 時間は不可逆 それでも記憶は 過去を現在へ連れてくる

