
音が止んだ 工房の中 切れた弦だけ 床に残る 赤き旗は 遠ざかり 白き旗だけ 雨に濡れてた テオドアはただ 膝をついて 砕けた木を ひとつ拾う 青い雫 星の徽章 その手の中で かすかに光る さっきまでそこに シエラがいた 歌っていた 笑っていた 家族が増えたと 言われた夜も まだ胸の中で 温かい なのに今は 何もない 空の光が 床に散らばる これはただの 楽器じゃない テオドアの声が 震えていた 見てみろ これがシエラだ おまえたちが 奪ったんだ 祈りだろうが 白い旗だろうが 力で人を 好きにできると思った 見てみろ これがシエラだ ここにいたんだ 確かにいたんだ あの声も あの温もりも おまえたちが 奪ったんだ エリアスはただ 立ち尽くした 白き鎧が 雨に光る 床に落ちた 青き雫 その形に 息を呑んだ ゼノンの弦だ あの印だ 真を歌った 人の名残 守ると誓った あの日の声が 胸の奥から 崩れてゆく 白き旗は 間に合わなかった 祈りはここに 届かなかった エリアスの手は 剣を握り けれど言葉は 出てこない 見てみろ これがシエラだ おまえたちが 奪ったんだ 赤き旗だけの 罪じゃない 届かなかった 白もまた傷だ 見てみろ これがシエラだ 誰の旗にも 渡さない この子はここで 歌っていた この子はここで 生きていた 小さな切れ端 ひとつひとつ テオドアは 手のひらに乗せた 戻るのかなど 分からない 直せるのかも 分からない それでも拾う それでも集める 拾わなければ 終わってしまう 職人の手が 震えながら まだ温かい 名前を探す 直せるのかと エリアスは言う それは問いではなく 祈りだった テオドアは 砕けた弦を握り 唇噛みしめ 答えていた 直してみせるさ 俺はこれでも 職人だと かすれた声で 直したところで 戻るか分からない それでもやるしか ないだろう あんたも 騎士ならば その剣でなく その旗でなく 人の暮らしが 壊れぬように この国を 治してみせろ 直してみせるさ 砕けた弦も 星の徽章も 青い雫も この手で繋ぐ この手で探す シエラが帰る 道を作る 直してみせるさ たとえ何年 かかったとしても 手は止めない だからあんたも 騎士なら国を 治してくれ 俺がシエラを 直せるように エリアスはただ 目を伏せたまま 白き旗を 握りしめる 雨の音だけ 遠く響いて 工房の灯が まだ揺れていた テオドアはまた ひとつ拾う 切れた弦を 胸にしまう シエラの名前を 呼ぶ代わりに 直してみせると 呟いた

