𝔸𝕀𝕌【𝔸udible 𝕀dol 𝕌niverse】 音楽プロジェクト"𝙇𝙄𝙉-𝙜𝙞𝙧𝙡 𝙉𝙐𝙈𝘽𝙀𝙍𝙎"が描く一大叙事詩  𝔸𝕀𝕌 # 5 - 6 https://suno.com/playlist/4e179df0-d129-4cf5-ba7a-fe8229949d05  [総集編] 3分でわかる 𝔸𝕀𝕌 https://suno.com/playlist/b46c3510-4f2f-49ad-8833-d42157db6a56  ↶⇃↧↡↓⇣⇟⇓⇊ 🆂🆃🅾🆁🆈 is below ⇊⇓⇟⇣↓↡↧⇂↷ ────────────────────────────── 6️⃣ Siↄ|‹!S      (⑥~⑥) [dark cabaret, futuristic soundscapes, space opera]  🅿🅻🅰🆈🅻🅸🆂🆃  https://suno.com/playlist/3f45232d-8fb9-483f-872c-3cac9d06f1da 「 詩 とは 言 の 病 なり」(Poem=Logos+Siↄ|‹!S) 6️⃣ 詩篇『パピヨンの伝説』 「血に囁く、五十の姫/宝石函の少女/虫愛づる姫君。」 ────────────────────────────── 🅻🆈🆁🅸🅲 片輪は翠 片輪は白 わたくしたちには似合わぬ広さの 林を憎む 糜爛の屋敷という林を (幼稚な  幼稚な  幼稚な 振動) [male] 重ね着は蒸し暑く 薄着は寒々しい 越冬よ 許してたもう 越冬と 名を変えたおばとおじ わらわらとともに生まれた兄妹なのに わたくしたちには与えられぬ紋章が この家にはある この時代にはある [female] 藪肉桂の宮殿に降り立つ力天使の帆 塔守よ 怠ることなかれ 兵長よ 彼奴の皮は剥いて弔旗に 頑丈に設えられた楠木の幹による砦に 都市から来る狙撃手が毒矢を 濡れた鏃が 天蓋を裂いて鏃が 青い三角定規 黒鉛の鶏冠の群 わたくしたちには似合わぬ呼び名を 腐葉土に乗せ 湯気となって消える共時の虞 (数奇な  数奇な  数奇な 傷痍) 瑇瑁一族の末裔は淡い色調に透き通った 両性具有の生殖器を持つ 双子を生んだ 双子を生んだ 水面に触れ 雲に触れ 僅か一抹の 鱗粉も溶けぬ前に絆の融合 俺は わたくしは お前は貴女 比翼は淡色 肥沃は男色 わたくしたちには似合わぬ弱さの 霧雨に敗け 吸われた空を汚泥から水簸 (巧緻な  巧緻な  巧緻な 弾指) 運命の刻は力天使の再訪...... [duet] 誤りを創った指先が 宙を嗅いで 夜露を読んで 永久に離れまいと誓った兄妹なのに 乾かぬ翅翼は脆く発破し 広間は嘆声 墓には喝采 大いに響き 左方はアイテム 右方はテーマ  世継を亡くした枢機卿と連む魔導の 翁が掖庭で舞う 欠いた月にはすべて咎なし (典雅な  典雅な  典雅な 飛翔) [female] 数世紀が経ち 公営住宅の敷地内で 崩れた砂山の奥底から 埋もれた骨塚が現れる 蝋と化した青筋の 透き通った翠の鎧 石と化した帝揚羽の黄色い斑 いまだ曲率は零 [male] ランドセルを背負った幼い二人が木の枝で 「夢かな」「そうじゃないかな」と突っつきながら頬を染める 離れ離れになった今の二人が 女の方が 「可愛らしい絵」と嘗ての二人のポートレイトを嘗め 漸く曲率は円かを成す ……その、半弦は翠 半弦は白 (妖魔の  妖魔の  妖魔の 描画) ───────────────────────────── 🆂🆃🅾🆁🆈  第5章 『𝐃𝐢𝐬𝐚𝐩𝐩𝐞𝐚𝐫𝐞𝐝!』 vol.8  地上から少し離れた場所の喧騒……。  少し前と比べて、ほんの少しだけ気を遣っているように見える、屋上の遊具園……。  いつもの場所に、先客がいて立ち止まる。そういうこともある。その場所は私だけの場所ではないのだから。  ……私だけの、場所ではないのだろうか。  どけてほしい。  邪魔しないでほしい。  家の都合で三日来れなかった。  その間に私の場所はなくなっていた。  私には必要だった。  その場所が。  あの子の病室の窓から、そのベッドから起き上がらずに見ることができる最適な場所は、そこしかないのだから。  ゆずってほしい。  私に必要な場所は、私にゆずってほしい。  先客の片方が後ろを振り向いた。もう片方の肩を小突く。  あ……、と私は息が詰まった。  見覚えのある二人が誰かを思い出したそのたった一瞬、瞬きよりも短い刹那のあいだだけ、周囲に期待した。  あの子も来ているのではないか、と無邪気な期待だった。  並んだ夫婦が揃って頭を下げる。  そんな、雰囲気じゃないのかも……と感づいた私は、持っていた風船の袋をポシェットに押し込んだ。立ち止まって、角度なんて分からないから見よう見真似で軽い会釈をふるまった。  夫婦の方から近づいてきた。私も迷うような足取りで歩み寄った。 「覚えてるかな?」  はい、と言った声は伝わったかどうか分からない。口の中だけで響いた気もする。頭をこくんと下げた。 「……の母です」 「父です」  知ってる。あの子の両親だってことも。大人がそうやって挨拶をすることも。分からないのは……その二人が、なぜここにいるのか。ああ、病室に入れなくて、代わりにここから娘を眺めているのか。  ……娘を、眺めている? 「さっき、カソウが終わりました……。カソウ……分かる?」  仮想、貸そう、下層……そう読むことばはたくさんある。どれだろう。私はこくんと頷く。分かっても分からなくても頷く。頷くしかない。 「あなたと会って……毎日楽しそうだっ…… 「ここで風船を……あなたの姿……楽しそうに笑って……」 「あの子の代わり……ありがとうを言いた……」 「ありがとう」 「ありがと…… ……  …………。 ……………………。 ……リ。…………  …………リ。…………   ………… ………カリ!   ……リ…… …… …… アカリ!」     頬にざらついた石と砂の感触。耳の上を吹きやまない風の音が通り過ぎていく。肩を叩かれ、背中をさすられ、足を揺さぶられる感覚。  まぶたは開いた瞬間に赤々とした岩肌の、鮮烈な色に驚いて再び閉じようとした。 「アカリ!」  呼ばれて、まぶたは引っ込む。視野が仕方なく景色を受け入れる。気配を追うと、クルミが覗き込んでいた。唇の端が切れている。 「立てる?聞こえる?聞こえてる?」  私は腕を支えにして上半身を起こす。誰ともなく私の体を支えてくれた。ツクシ、シズク、カオリ。みんな、頬を砂で汚している。風がみんなの髪を暴れさせている。  地面に着いた右腕以外の身体に力が入らなかった。  四人ごしに周囲を眺めて、この景色を描写するならどんなことばを使おうか、と妙なことばかり頭によぎった。荒涼な大地……紅蓮に燃え立つ焦土……火星……?  語彙が足りない。悔しい。  剥き出しになった地表の向こうは黒かった。暗いのではなく黒い。でも黒一色ではない。弾け飛んだ飛沫のように点々と粒が埋め、それはじっと見つめないと分からないほどささやかに瞬いている。  つまり、宇宙だ。  空はない。想像したとおりの宇宙が、剥き出しで広がっているのだった。地平線近くには、星が密集して泡の塊のような星雲を形成している。ゆっくり自転なんだか公転なんだか、詳しくは分からないが、景色の全体がゆっくり動いているのも感知できた。  まるでこの大地がゆっくりと、宇宙という底なしの穴に沈んでいくみたいだった。 「ここはどこ?」  知りたくもなかったが、誰宛てでもなく問いかける。 「宇宙のどこか……」  クルミが答えてくれる。  たぶん私でもそう答えるしかなかった。難しいことばを重ねても、たどり着けない明解な答え。ここは、宇宙の真っ只中だ。 「アカリ……。ふぅちゃんは来てないみたい」 「これは、WONDER・S −− 私たちだけに宛てられた"物語"だからかも」  アカリがつぶやくとカオリが立ち上がって手を差し伸べてきた。指先は煉瓦色の乾ききった砂で汚れている。 「……なら、先に進むべきじゃない?この世界に呼ばれた理由がきっとあるはず」  カオリの手を掴んで立ち上がる。  スカートの砂埃を払って、ぐるりと見回す。半球を塞ぐ宇宙は果てのない空間かもしれないし、あるいはただの緞帳かもしれない。私にはもう世界の拡がりも奥行きも見分けがつかない。  広大な土地にぽつんと取り残されていることと、狭くて窮屈な世界に閉じ込められていること、それはほとんど同じことで、どちらにしても私には息苦しかった。  パシャッ。 「シズク……」 「後から見返そうよ。記録って、そのためにあるんだよ」  シズクの眼鏡に荒野と星空が反射していた。レンズを二分するかのように映り込んだ奥に、シズクの目が優しそうに笑っている。 「ねえ。誰か、私より視力いい人いない?」  輪から外れて背中を向けていたツクシが呼びかける。 「両目、裸眼で2.0だけど?」  カオリがその隣に立つ。 「あれ。なんか岩が尖って突き出た丘みたいなところあるじゃん。分かる?」 「んー、どこだ〜?あの青っぽくてわりかし大きい星があるところ?」 「それこそ、どこよ。ここからこう右にぐるんと進んでいったとしてさ、ちょっと盛り上がったところがあるでしょ。その奥から、ちょい左に進んでいったところ。なんか、ひらがなの"へ"の字みたいに曲がってるところ」 「……うん、だからその上にちょっと大きめの青白い星が光ってるじゃん。思ってたどおりだよ」 「いや、それは分からん」 「あー、ごめん目が良すぎるのかも。それであそこが何?」 「"へ"の字のてっぺんにさ、誰かいるくない?」 「あー」 「人影っぽくない?」 「あー、……ぽいねぇ」 「でしょ、でしょっ」  ツクシが遠くを指差したまま、勢いよく振り返った。 「目標発見!行こっ、ね、行こうよ!」 「ズームで見ても、ちょっと遠すぎて分かんないなー」  シズクがカメラを覗いている。 「走ってったら意外と近いよ」  カオリは屈伸を始めている。その頭の上から浴びせるように、「それはカオリだけでしょっ」とツクシが軽口をたたいた。 「行ってみよっか」  クルミがアカリの手を引く。 「うん」  私はこくんと頷く。頷くしかなかった。 *  数日前の"Musée d'Août"−−。  壊れかけの安楽椅子に腰かけて、微睡の最中にいた。  軋む音が少女の声のように感じられた。そろそろ新調しなければなるまい。いつか体重をかけた拍子に壊れて、尻もちをつく未来しか見えなかった。だが、この危ういバランスもまた気に入っていた。落ち着きたくないのだ。大人げないくらいに、私は何か遊戯を求めてすらいた。  蝶は、庭を旋回していた。私とあの蝶は似ている。  ひとりをこのうえなく愉しんでいる。  先ほど紙を漉いて、糸で束ね、背に糊を引き、古い布を張った表紙をつけた。紙の厚さは揃っておらず、小口も波打っている。開けば綴じ糸が軋み、頁と頁のあいだには乾ききらなかった草の繊維が、細い筋となって残っている。  それでいい。むしろ、整いすぎていないところがいい。行儀がよすぎる売り物の帳面は、ペンを入れるのに緊張が混じる。この日記帳は、机の上に置いてあるだけですでにひとつやふたつの世界を過ごしているように見えた。  表紙には文字を入れなかった。日付も、持ち主の名前もいらない。誰の日記になるのか、まだ決まっていないのだから。  蝶は本棚とランプのあいだを二度ほど巡り、机の上の日記帳にとまった。ゆっくりと羽を開き、また閉じる。そのたびに鱗粉がこぼれ、表紙の布をかすかに光らせた。粉の一部は、頁と頁の隙間や、糸で綴じた背の奥へ入り込んでいった。  私はそれを払い落とさなかった。不完全なものを加えておくほうがよい。いつか誰かがこれを開いたとき、ただ昨日までの出来事を書き留めるだけでは済まなくなる。そのために。  もっとも、誰に渡すつもりもなかった。私がここに記していくのだ。  蝶の生む音楽に、見合った詩篇を。  私は安楽椅子に深く身体を預けた。椅子がまた、少女の声に似た音を立てた。  少女の声はつづく。  私は聞き耳を立てた。  おや。あれは昨日、軒先に突っ立っていた少女だ。また来たのか。  そして、今日はひとりではない。  なんとも騒々しい。四人の少女が無断で敷地に入ってきた。  私はそのまま安楽椅子にもたれかかり、すぐそばを少女たちが駆けていくのを眺める。  どうせ、彼女たちに私の姿は見えない。  さて、君たちはどんなことをして愉しむのだろう。  庭の色彩に見とれている少女たちを見ながら、純粋がゆえの危なさを感じ取った。  うん。素晴らしいバランスだ。  私は安楽椅子から起き上がって、室内に入り、日記帳を掴む。  この"Musée d'Août"。雑多に置かれた"展示品"の数々、触れて愉しむのは自由だが、こればかりは時期尚早だ。まだもう少し私のものであって欲しい。  私はそのまま踵を返して、外に出た。蝶の生む"窓"を見つめて、まるで宝石箱に閉じ込められたような少女たちの背後に立った。 「"星霜の庭"」  昨日の少女が言う。ほう、なんと摩訶不思議。もしや、この少女は……。 「ほら、あれ見て。あれが、この庭の"あるじ"」  立て続けに言う少女を、つい私は気に入ってしまった。そこに心なしか"君"の面影を感じて。  その蝶は、私の愛くるしい"娘"のようなものだ、仲良くしてやってくれ。そう、囁いた。だが、きっと届かない。  ちらりと少女の瞳が横にぶれた。  そうか。これは失敗した。遊戯は終わりだ。 「音楽が聞こえる……」 「この蝶から、聞こえるの」 「どういう原理、それ?」 「さぁ、分からない。でも、聞いたことのない曲ばかり」 「伴奏だけ、なのかな?」 「たまに声が聞こえるときもある」 「誰の声なんだろう」 「さぁ」  そうだ。それは歌詞を与えられた曲だ。  蝶は音楽を放ち、そこに詩が与えられると蝶に戻ってくる。  いや、本当の順番から言おう。  蝶は既存の音楽を吸収し、自らの羽のなかで解体する。  まるでさなぎになったときに一度、幼虫の体が崩れるように。  そして、再構成して、新たに音楽を生む。  正確に言えば、音楽だけではない。環境、気流、温度、圧力、さまざまな外部変化を情報として受け取り、それを"世界"として認識する。  そうだ、蝶が生み出すのは、音楽という"世界"だ。  そして、それは外部の人間が認識しやすいように、超極微動する鱗粉によって周波となって出力される。  蝶は歌っているわけでも、演奏しているわけでもない。  すべては周波変換の結果だ。 「私たちでちゃんとした曲にしない?」 「え……でも、他の人の曲だったらどうするのさ」 「調べたけど、そっくりそのままの曲は公表されてなさそうだった」 「でも、なんか、いやな予感するけど~?」 「WONDER・Sもさ、いつまでも、ばっちゅ~のコピーバンドではいられないじゃない」 「ショット!これって、WONDER・Sが生まれ変わる瞬間?」 「ちょっと一回やってみよっか。クルミが音楽データに起こしてくれるかもしれない」 「一応、あとで調べてみようね。パクリだって言われたら学院がヤバくなるから」  少女たちが話し込んでいる。  思ったより行動的な少女たちだ。  この庭で長いこと暮らしていた"娘"も、そろそろ他の"娘"たちのように解放されるべき時なのかもしれない。いいだろう。安穏とした暮らしは、時に緩やかな監禁ともいえる。  私はただ"娘"の、奔放でも自由な幸福を望みたい。   「でも一回聞いただけじゃ覚えられなくない?」 「録音できたらいいのにね」 「羽ばたかないようにすれば、曲固定できるよね」 「持って帰る?」 「ちょっと待ってて」  少女が"Musée d'Août"のなかに入る。  何を考えだすのか。危ういバランスの線上を、少女も私も歩いている。  少女は替えのランプが入っていた箱を持ち出してきた。  そうか。私は合点した。やはり、失敗は続いている。線から落ちたのは私だった。 「この箱に入れたらさ、持ち帰れそうじゃない?」 *  呼吸ができるから本当の宇宙ではないとわかっていた。  けれど、さすがに呼吸は荒くなった。  ようやくたどり着いた岩山の、最後の傾斜のきつい坂を上り切った先にそびえた丘。  大きな岩の陰に、建物があった。古めかしい電飾で『Musée d'Août』と書いてあった。あのコテージとおなじ名前だ。  崖のそばにコテージの軒先にあったようなリクライニングの椅子に腰かけている人物がいた。  皺くちゃのハットをかぶったその横顔は確認できなかった。人影だと思ったが、奇術かもしれない。その風体は、衣服だけが人影を象り、肝心の肉体部分はまるで何もなかった。  椅子がゆっくりと揺れるたび、ハットとスカーフ、着古したロングコートも一緒に揺れた。開いたコートの内側には、革のサスペンダーを留めた灰色のシャツ。腰には銀色のバックルが光るベルトが締められ、ダークブラウンのズボンがそこに脚があるような膨らみをつくっている。裾の先には、擦り減った革のブーツが揃っていた。  シャツには肩や胸の厚みがあり、ズボンの膝には座ったときにできる皺。コートの袖は肘掛けの上で自然に折れ曲がっていたが、その先に手はない。空になった袖口から崖を吹き上がる風が入り込み、裏地をわずかに膨らませていた。  けれど、衣服を椅子へ並べただけではなかった。椅子のうえの虚空から声が聞こえた。 「やあ、WONDER・Sの諸君。ようこそ……ほんとうの"Musée d'Août"へ」