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赤い光-悪左衛門・主題歌-

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人物などの設定 https://note.com/cute_fowl6218/n/ncd13e2571247 本編 https://note.com/cute_fowl6218/m/m99fdb1b21360 ------------------------------------------------------------------------------------------------------- 黒い路面を 雨が打ち続ける 灯りの色が 水面で砕ける 濡れた衣の 擦れる音 等間隔に 重い足音 壁際 追われた影が 振り返る  雨の向こうに 立つ影 一つ 風が吹き抜け 裾だけ揺れる 笠から漏れる 赤い光 黒い路地裏 雨が流れ逝く 濡れた壁際 輪郭が滲む 編まれた笠の 隙間の奥 闇に浮かぶ 赤い光  水溜り 何も映さず 緋が爆ぜる 闇の向こうに 死の影 一つ 影が沈み 夜の底へ流れる 雨は降り続く 足音だけが 遠ざかる 雨は降り続く 灯りは瞬き続ける 水面の横に 冷たい抜け殻 ------------------------------------------------------------------------------------------------------- 第一話『魔弾』 「聞いたことある? 雨の夜にだけ出るっていう、お坊さんの話」  川崎市のファストフード店。  窓に打ち付ける雨粒をぼんやりと眺めながら、女子高生がストローを噛み潰して言った。 「あー、あの虚無僧のやつっしょ? 悪いことした奴を地獄に連れてくっていう」 「そうそう。スマホのカメラじゃ絶対写らないんだって。なんか、笠の隙間から赤い光が出てるらしくてさ」 「出た、都市伝説あるある。つーかお坊さんなら普通、極楽に導くもんじゃないの?」 「さあ? でも、私の先輩の知り合いがさ、深夜の路地裏で見たらしいよ。  真っ黒な着物のお坊さんが、ヤクザみたいな男の前に立ってたって」 「で、そのヤクザはどうなったの?」 「……次の日、交番の前でヨダレ垂らして倒れてたって。髪の毛、真っ白になってたらしいよ」  女子高生たちが顔を見合わせ、笑い合う。  窓の外では、暗い空からとめどなく雨が降り続いていた。 ◆◆◆  男は、自分の人生がどこでバグを起こしたのか、もう分からなくなっていた。  三十代半ば。妻と、生後八ヶ月の長男がいる。  会社では上司と部下の板挟み。住宅ローンに車のローン、見栄で作った高金利の借金まで抱えている。  それで帰れば、疲れ切った妻と泣き叫ぶ赤ん坊。 『今月、またカツカツなんだけど。あなた、お小遣い減らせない?』  またそれか。俺はATMか。何のために結婚したんだ。  その夜も、男は帰宅をためらい、幸区の裏路地をあてもなく歩いていた。  雨は彼の安いスーツを濡らし、革靴の中に冷たい水を染み込ませていく。 「お疲れのようですね」  ふと、声がした。  振り返れば、街灯の光が届かない暗がりに、白スーツを着た男が一人。  傘もさしていないのに、その純白の生地には一滴の雨も染みていないように見える。 「誰だ、あんた」 「ただの、道行く人の背中を押す者です。ひどく重い荷物を背負っておられる。……少し、楽になりたくはありませんか?」  白スーツの男が懐から差し出したのは、鈍い鋼色の拳銃。  男は息を呑んで後ずさる。 「おもちゃではありませんよ。  これは『視界に収めた相手なら、弾道すら無視して必ず射殺できる』という、特別な品です」 「な、何を馬鹿な……っ」 「嘘だと思うなら、試してみればいい」  白スーツの男は、男の冷え切った手に強引に拳銃を握らせた。  鉄の重みと冷たさが、奇妙なほど掌に馴染む。 「……なぜ、俺に」 「さあ。強いて言うなら、あなたが『とても良い目』をしていたからです。では、良い夜を」  白スーツの男は、路地裏の闇に溶けるようにして消えた。 【三日後】  深夜の駅前。  酒に酔った若い半グレが、男の肩にわざとぶつかってきた。 「どこ歩いてんだオッサン。慰謝料払えや」  胸ぐらを掴まれ、路地裏に引きずり込まれる。  恐怖と屈辱。男の震える右手は、ポケットの中の冷たい鉄に触れていた。 『視界に収めた相手なら……』  男はコートのポケット越しに、半グレの腹部を見つめ、無意識に引き金を――。  ――パンッ。  くぐもった乾いた音。  直後、半グレは白目を剥き、崩れ落ちた。  男は路地裏で胃液を吐き散らした。 (人を、殺してしまった……)  だが、同時に腹の底から湧き上がるのは、圧倒的な全能感。  証拠はない。  俺は、理不尽な暴力から身を守っただけだ。 【十日後】 「お前、本当に無能だな。給料泥棒が。そこから飛び降りてみるか?」  職場のフロア。  何十人もの前で、いつものように部長が罵声を浴びせる。  だが、男の目は淀んでいた。 (俺はいつでも、お前を殺せるんだぞ)  昼休み。  男は駅前の喫煙所にいる上司を、歩道橋の上から見下ろしていた。五十メートルは離れている。  男は鞄の中で拳銃を握り、標的を視界のど真ん中に収め、引き金を引く。  周囲のパニック、救急車のサイレン、それらが男の耳には全て心地よい音楽のようだった。 【二十二日後】  玄関のドアを激しく叩く音。借金の取り立てだ。  男はドアを開けず、覗き穴越しの視界に相手を収め、引き金を二回引くと、ドアの外で重いものが倒れる音。  あんな奴らに、金など返さなくていい。 【三十五日後】  男はもう、会社にも行かなくなっていた。  リビングは酒の空き瓶とゴミが散乱している。 「……あなた、お願いだから目を覚まして」  妻が、泣き腫らした顔で男を睨んでいた。その腕には赤ん坊が抱かれている。 「夜中に一人で笑ったり、誰もいないところに銃みたいなおもちゃを向けたり……もう限界。  私、実家に帰るから」  妻の言葉を聞いた瞬間、男の頭の中で何かが決定的に『切れた』。 (そうだ。こいつらだ――) ◆◆◆  ――男は雨の街を走っていた。  傘もささず、コートも羽織らず、ただ笑いながら水溜まりを蹴っていく。  これで自由だ。  明日からは新しい人生が始まる。  アスファルトを蹴る音が、水しぶきを上げる。  ふと、男の足が止まった。  街灯が点滅する寂れた交差点。その中心に、立つ影が一つ。  黒い僧衣に、袈裟。頭には、顔をすっぽりと覆う天蓋(虚無僧の笠)。  雨が容赦なく打ち付けているというのに、その僧侶は微動だにせず、ただ男の進行方向を塞ぐように立っていた。 「……邪魔だ。どけよ」  男が引き金を引く。 「どけって言ってんだろ!!」  三発。四発。五発。  不可視の銃弾は間違いなく僧侶の体を捉えていた。  だが、僧衣の裾が風でわずかに揺れるだけで、倒れる気配すらない。 「な、なんだお前……っ、死ね! 死ねよ!!」  僧侶が、ゆっくりと歩みを進めた。  男は後ずさり、尻餅をついた。恐怖で歯の根が合わず、持っていた拳銃が水溜まりに落ちる。  僧侶が、男を見下ろした。  その瞬間。顔を隠す天蓋の編み目の奥深くから、ドロリとした血のように赤い、不吉な光が漏れ出す。 『――汝、血肉を分けたる者、その未来と命を奪いし罪』  声ではない。  脳髄に直接叩き込まれる、地底から響くようなおぞましい重低音。  直後、男の全身の神経が爆発した。 「ぎゃあ、あああああああぁぁぁぁっ!!?」 ◆◆◆ 「でさー、そのヤクザ、マジで交番の前で倒れてたんだって!」 「えー、ウケる。それ絶対ヤクザじゃなくて、ただの酔っ払いのおっさんでしょ」  明るい朝日が差し込むファストフード店で、女子高生たちはポテトを齧りながら笑い合っている。  同じ時刻。幸区の交差点の片隅。  ゴミ捨て場に寄りかかるようにして、一人の男が座り込んでいた。  髪は雪のように真っ白に抜け落ち、虚ろな目からは乾いた血の涙の跡がこびりついている。 「あ、あ、ああ……かみさま、かみ、さま……」  誰も彼を気にも留めず、日常の風景の一部として通り過ぎていく。  その水溜まりに、一瞬だけ、虚無僧の黒い影が映り込んだ気がした。 ◆◆◆ 「……いかがでしたでしょうか」  雨が上がり始めた幸区の交差点。  行き交う人々が誰一人として気にも留めない、ゴミ捨て場で震える抜け殻のような男。  その惨状を、少し離れた歩道橋の上から見下ろす白スーツの男が、画面の向こう側の「あなた」に向かって静かに語りかけている。 「自分を縛るものをすべて消し去った彼が……最後に見た自由の景色は、果たしてどのようなものだったのでしょうね」  白スーツの男は、雨に濡れた手すりに指を這わせながら、フッと冷ややかに微笑んだ。 (第一話『魔弾』・完) ◆◆◆ 「……こんな噂を、ご存じでしょうか。  コラボすれば、必ず数字が伸びる――そんな配信者がいるそうです。  駆け出しの高天ヶ原タケルにも、そんな男とのコラボ話が舞い込みます。  ですが――  カメラは、いつも撮る側だけのものとは限りません」 「次回」 第二話『英雄』 「どうぞ、お楽しみに」