
夜明け前の静寂に ゼンマイが巻かれた 余白だらけの譜面に 最初の音が落ちた それが 生まれるということ 何も知らないまま この振り子の隣に 最初はただ 耳を澄ませていた 世界が先にここにあって わたしは あとから来た客人 カチ、と刻む音は待たない カチ、と刻む音は急がない それでも わたしは弾いた 不揃いな旋律を この律動の上に 生きるってきっと そういうこと 覚えた和音の数だけ 涙の理由も増えた 転んで泥だらけの楽章も この一定の間隔には どれも同じ重さ ひとつ残らず 刻まれていく 褒められた日も 詫び続けた夜も 振り子は誰の味方でもない だから 誰かの味方でいられた カチ、と刻む音は嘘をつかない カチ、と刻む音は色褪せない 何を失っても 何を掴んでも このリズムの上では みな同じ舞台の奏者 愛も怒りも あらいざらい乗せて ともに揺れる 指先が 最後の鍵から離れていく 声が 言葉の形を忘れていく 舞台の袖へと ゆっくりと歩いていく ねえ 聞こえる? まだ 鳴っている カチ、と刻む音だけが残った カチ、と刻む音だけが残った そのことに気づいた夜 わたしが消えても 続く旋律がある 誰かがまた ここに音符を置くから

