スペードはゆりの左の耳たぶを軽くかんでいたので、ゆりはびっくりしていた。 (え? なんか耳かまれた。どういうこと?) スペードはすぐに離れたので、ゆりは何が起こったのかと胸元を押さえつつスペードに顔を向けた。 「すいません。豹流の挨拶をしたくなってしまって、してしまいました」 スペードは横を向いてちょっと恥ずかしげに言っていた。 「挨拶?」 (豹の挨拶って、なんか恥ずかしい。スペード様はしょっちゅうこんな挨拶を?) ゆりはその場面を想像していた。 (それって男にもするのかな?) ゆりは男同士がしているところも想像していた。この世界にはいろいろな一族があって、その一族ごとの文化というものがあるようだ。元の世界でも、挨拶に軽く頬にキスしたりする国などもあったので、 ゆりはそういう文化だと思った。 (豹の一族では恥ずかしいことじゃないのかも。文化の違いってやつね。きっと) 「私も挨拶していいですか?」 ゆりは挨拶をされたら返すのが普通だと思っていたので言ってみた。 「え? してくれます?」 「はい」 「じゃあ」 スペードは顔を寄せた。ゆりはスペードの右耳をあむっと唇で含んで、ぱっと離れた。 スペードは近くでゆりを見ている。 ゆりは真っ赤な顔で、「私はこういう挨拶したことないので、ちょっと恥ずかしいです」と言っていた。 スペードは何か言おうとしていたが、ゆりは周りの世界が白くなってきているのに気づいて、「それじゃ、スペード様、お元気で」と言って逃げるように去って行った。スペードは自分のベッドで目を覚ましていた。目覚めるなりがばっと体を起こして口元に手をあてている。 「やばい。つい耳をかんでしまった……しかもお返しまでさせてしまった」 (彼女は普通の挨拶だと思ってくれていたが……挨拶は挨拶でも、あれは赤い月前の男女がする挨拶なんだが……もし彼女が他の豹の男にあの挨拶をしたらどうしよう。かなりやばい。だが彼女は豹の男に会うのは オレが初めてだと言ってたし、会わないかな? 大丈夫か? そうだ。こういうときこそ手紙を書いたらいいじゃないか」 スペードは上半身裸のまま机に向かい、ペンを持っていた。 13の月、聖地の朝は結構寒い。 スペードは便せんを一枚出して何か書こうとしたが、なんと書けばいいかが分からない。 (あの挨拶は意味深なので他の男性にはしないでくださいと? 意味深って何ですかと返答が来たらなんて答えりゃいいんだ? 体を重ねたいという意思表示で……とか) 「そんなこと書けるか!」 スペードはかなり困っていた。 (