
極楽の蓮の池から… 一本の蜘蛛の糸がたらされた… 地獄の底は静か 反響もない闇 そこへ銀の糸が ひとすじたれてきた すぐには疑問に思わなかった なぜならそれがあまりに細く あまりに優しかったからだ 蜘蛛の糸だと知ったときも まだ救いをまとっていると信じていた だが それはいつも 千切れるまでは 救いに見えるのだろう 手を伸ばすのは いつだって闇にいる者 だから私はただ握る 握ることが もう罪に近いのだとしても 銀の糸は冷たく脆く それでも上へ行ける気がしてしまう 問いはそこにはない ただ 糸を握るか 握らないか この先で どこまで行けるのか あるいは どこで切れるのか それだけである ハムレットが言った「生きるか、死ぬか」と だが私の前にあるのは銀の糸だけだ 神の慈悲か罠か見分けなんてつきようがない マクベスが言った「人生は歩く影法師」と ならば私は指をはむ影法師だ 優しさに甘えるだけだ 切れるなら 切れるがいい どのみち下へ行く 上ではきっと何かが見ている 見ているだけで手は出さない いや 最初から手を出していたのだろう 糸を垂らした時点で もう筋書きは決まっていたのかもしれない 私は善人ではない そのことは自分が一番知っている だから助けを望むのも滑稽だ 落ちるに値する者は落ちる それで妥当だ それ以上でもそれ以下でもない リア王が言った「わしは誰だ」と 与えられていたものがすべて剥がれ ようやく現れる問いだ はじめて自分という曖昧を見る オセローが言った「嫉妬は緑眼の怪物だ」と ならば私を見ているのは、 怪物ではなく見捨てられる予感である ハムレットが言った「生きるか、死ぬか」と 私はもう、そのどちらも選ばない 蜘蛛の糸をまだ掴んでいる まだあるからこそ残酷だ マクベスが言った「人生は歩く影法師」と ならば影法師らしく私は闇に消える ここは神々の遊び場 見下ろすと私によく似合う暗黒がある シェイクスピアが言ったように この世は舞台なのだろう ならば私は奈落へ落ちる役が適任だ この糸は蓮の池に繋がっているのだろうか それが救いだとは思ってはいない ただ 落ちるまでのあいだ思いにふけっただけ 神よ 満足か この堕ち方で これで足りたか…?

