
……狭くないの そこ 薬局の待合室 壁ぎわの水槽 名前も知らない魚が ずっと泳いでる 右に行って 左に行って 岩のうしろを通って また戻ってくる 毎日 同じ景色なんだろうな 水はきれいだし 飯も降ってくるし 敵もいないし ……まあ 悪くないのか でもさ 狭くないの 海とか 知らないんだろ だったら 海に行きたいなんて 思わないのかな ここは安全 ここはきれい 今日もちゃんと 生きていける ガラスの向こうに 何があるのか 知らなくたって 別に困らない ……それってさ 幸せなのかな 魚の向こうを 人が歩いてる 仕事に行って 家に帰って 寝て 起きて また仕事に行く 金をもらって 飯を食って 雨にも濡れないで ちゃんと生きてる ……あれ なんか 似てるな ガラスが 見えなかったら 水槽の中にいることも わかんないのかな ここは安全 ここは便利 今日もちゃんと 生きていける 決められた場所で 決められたように 外なんか知らなくても 別に困らない ……それってさ 自由なのかな 会社 金 時間 常識 見えないだけで ガラスなんて そこらじゅうに あるのかもな 魚から見たら 俺たち 自由に見えるのかな 好きなところへ 歩いていけるし 好きなところへ—— ……いや そうでもないか 海を知らない魚と 海を忘れた人間 どっちが自由かなんて 俺にはわかんない 水槽の中から こっちを見て 水槽の外から そっちを見て 俺は君を見てる 君も 俺を見てる 薬局の待合室 名前も知らない魚が ゆっくり こっちを向いた …… なんだよ …… ねえ そっちは 広い?

