
夜の背骨に 名もなき影が ゆっくりと 姿を変えてゆく 笑っているのか 啼いているのか 顔は猿に似て 声は風に散る 誰かが指さし 何かと呼び 誰かが祈り 誰かが撃つ 胴は狸 腹に灯り だが心臓の場所が 毎晩ずれる 正しい形など 最初から なかった 見たことのないものを 見たと言う夜 説明できないまま 恐れだけが残る 名をつけるほど 遠ざかり 祓うほど 増えてゆく それが ヌエ 前脚は虎 地を裂き 後脚は記憶を 引きずる 強さと弱さを 間違えて縫い合わせたような 歩き方 尾は蛇 疑いを撫でる 触れたものすべてに 「本当か?」と 問いを残して 人は言う あれは不吉だと 人は言う あれは間違いだと だが 正しさだけで できた生き物を 私は見たことがない ひとつに決めろと 叫ばれるほど 私は ほどけていく 祈りでも 呪いでもない ただ 混ざったままの存在 それが ヌエ 猿の顔で 世界を見る 狸の腹で 疑いを抱く 虎の脚で 逃げ 蛇の尾で 戻る 夜が名を失うまで 私は ここにいる

