
はて、ここはどこだろう
眠りすごした終点の駅 見慣れた文字がひとつもない あわてて降りたホームの先 夕立あとの匂いがした ポケットの中 探る指で 何度も画面を撫でてみる ひび割れみたいな残量で 地図を開いて そこで消えた 改札越しに流れる声も どこか知らない国みたいで 少しこわくて でもなぜだろう 胸の奥だけ静かに鳴る はて、ここはどこだろう 開いた地図ごと消えた画面 頼れるものがなくなって やっと風の匂いに気づいた はて、ここはどこだろう 帰り方ならまだ知らない それでも靴底ひとつぶん 今日がたしかに鳴っている 踏切の先 のびる商店街 知らないことばが耳に揺れる 軒先で揺れるシャツの群れと 曲がりそこねた夏の気配 小さな川にかかる夕陽 自販機の灯り 滲むガラス こんな景色ははじめてなのに なぜか昔を思い出した ちゃんと帰れるはずなのに まだこのままでいたくなる 少し心細い横顔で 知らない街を好きになってる はて、ここはどこだろう 読めない駅名 知らない影 ひとりぼっちになったはずが 風はやさしく肩をたたく はて、ここはどこだろう 帰り方ならまだ知らない それでも靴底ひとつぶん 今日がたしかに鳴っている 迷っただけのはずなのに なくしたものはなにもないのに どうしてこんなに胸の奥が きれいなままで痛いんだろう 名前も知らないこの街にも だれかの朝と夜があって そのあいだを歩くわたしも ちゃんとここにいる気がした はて、ここはどこだろう 開いた地図ごと消えた画面 頼れるものがなくなって やっと空の広さに気づいた はて、ここはどこだろう 帰り方ならもう探せる それでも靴底ひとつぶん 今日をこのまま鳴らしていたい はて、ここはどこだろう 知らないままでよかったんだ 迷いこんだこの一日が わたしを少し変えてゆく はて、ここはどこだろう はて、ここはどこだろう 遠くで電車が鳴っている わたしの今日を乗せるように

