
[Intro] 秋は夕暮れ。 夕日のさして、 魚焼くにほひの近うなりたるに、 台所へゆくとて、 足音も立てず歩むこそをかし。 人の振り返りたる時には、 すでに座りて待つ。 いま来たるにはあらず。 はじめより、 ここにをりたる顔をすべし。 [Verse] 鼻が知らせる よき知らせ きょうの夕餉は 魚らしい されど慌てて 駆けつける はしたなきことは いたしませぬ 一歩 二歩と 音もなく 戸口に着いたら ひと休み 人がこちらを 向いたなら 前足そろへて 知らぬ顔 [Chorus] いま来たるには あらず あらず はじめより ここにをりました お魚目当てと 申すとは それは少々 心外にゃ いま来たるには あらず あらず 秋の夕べを 愛でるだけ されど お皿を 置くのなら このへんなどが よろしかろう [Bridge] 右へ動けば 右を見る 左へゆけば 左を見る 魚を追ひたる わけではない 人の働き 見守るなり 皿がひとつ 置かれたら ようやく気づいた ふりをして 「おや、これはこれは」と 立ち上がる 礼儀はなかなか むづかしにゃ [Final Chorus] いま来たるには あらず あらず はじめより ここにをりました ひと口もらへば 目を細め もうひと口なら なほをかし いま来たるには あらず あらず 明日もここに をるでしょう 魚の焼けぬ 夕暮れも? ……それは、その日の 心地しだい。


