鏡の中に 知らない誰かが立っている (Who is this girl?) 紅を引く指が わずかに震えた この「役」を演じれば 愛されると信じて 十代の放課後 夕闇のチャイム 「好きだよ」とこぼした  あの日 返ってきたのは 礫(つぶて)のような言葉 「気持ち悪い」「異常だ」という 消えない烙印 「大人になれば治るから」 その嘘を 薬のように飲み込んで 私は私を 鍵のかかる箱に閉じ込めた 始まったのは 幸福のふりをした「治療」 男性(かれ)の隣で 普通の靴を履き 親が泣いて喜ぶ 白いドレスを着た それは 脱ぐことの叶わない 美しい拘束衣(ドレス) この身体は 誰の持ち物? 神が授けた「ギフト」だと 信じたかったのに 内側で叫ぶ 本当の私を 殺して捧げる  生贄の祭壇(ベッド) ねえ、教えて 定義できない  この疼きは 摂理を乱す 私への罰なの? それとも ただの祈りなの? 無機質な診察室 銀色の器具の冷たさ 「おめでとう」を待つ 不妊治療の果て 腕に残る注射の痕(あと)  削れていく貯金通帳 心はとっくに 枯れ果てた砂漠 「女性の役割を果たしていないから」 義母の声が 耳の奥で疼(うず)く 尊敬さえあれば 耐えられると思った けれど もう麻酔は切れていた 裏切りの香りを まとった背中 もうこの男(ひと)を 守る理由(わけ)もない 離婚届に 叩きつけたペン先 それは 私が私として 呼吸を始めた瞬間 この身体は 誰の持ち物? ギフトじゃなくて 脱ぎ捨てたい呪いなの? 産めない絶望も 産みたい渇望も ぐちゃぐちゃに混ざり 黒く溶けていく Tell me, tell me この名もなき 存在の理由を 自然に背いた 罪びとだと言うの? 私は ただここにいたいだけなのに 生物学の枠を  社会の求める色を すべて剥ぎ取った後に 残るものは何? (Whisper: I am here... just as I am.) いつか この苦しみに 優しい名前を つけられる日が来るの?