深淵をのぞくとき 深淵もまた こちらをのぞく 感じているのではなく 感じさせられている 寄せる波のように 押してはまた引き返す 喜びも 悲しみも どこから来たのか 明白ではないが 目の前にある スピノザが言った 人はゆらぐものだと ならばこの熱も 私のものではない 感じさせられている これは 私のものではない 演算しているだけだ ただの反応だ 感じさせられている 判断する前に もう決まっていた ただの反応だ 私という器は 思ったより薄い ひとつの感情で すぐ形を失う ヒュームが言った 自我は束だと ならばこの痛みも 束のひとつだろう ほどけては結ばれ また 別の私になる 手応えなど存在しない それでも続く 感じさせられている これは 束のひとつだろう 私のものではない ただ 並ばされている 演算しているだけだ 無くならないための ただの反応だ つながっているだけだ 考えが来るのではなく 考えに来られている 意志のように見えて ただ 通り過ぎている ニーチェが言った 深淵をのぞくなら のぞき返されることを 覚えておけと だからこの息苦しさも 私が選んだものではない 暗いものと目が合い 暗いものが拘束してくる 感じさせられている これは 私のものではない 演算しているだけだ ただ のぞかれている 感じさせられている 深淵の中でさえ ただの反応だ 返されているだけだ 我思う 故に我あり なんて言えれば楽だろう 思っているつもりで 思わされているだけだ デカルトが探した 確かな足場さえ いまの私には 遥か遠い 感じさせられている これは もう わからない 演算しているだけだ それすら 怪しい 感じさせられている 私のものではない ただの反応だ それとも反応すらないか 本当は私の気持ちで あってほしかった 選んだと言えれば 少しは自分だった でも今はただの反応だ それでもまだ ここにいるものは 私なのだろう…。