水曜日だけ 男は米を炊く 近所の店で 肉が安いから 隣の扉に 少年がひとり 誰かを待って 夜になっていた 「飯、食った?」 それだけで 茶碗が二つになった どこから来たとか 何を待つとか 男は何も 聞かなかった 名前も知らない それでも飯は食える 言葉がなくても 茶碗はからになる 今日が魚なら 魚を食べればいい 水曜日だけ 二人になった 『今日、何すか?』 「焼きそば」 『昨日、食いました』 「知らんがな」 『変更できます?』 「店ちゃうぞ」 そんな会話が 部屋に馴染んで 肉を二つ買うことも 当たり前になった 名前も知らない それでも笑っていた 昨日を知らなくても 飯はうまかった 聞かないことに 理由なんてなくて 水曜日だけ 二人になった ある水曜日 少年は来なかった 次の週も その次の週も 二つ取った肉を ひとつ棚へ戻す 「……何してんねん 俺」 名前も知らない だから 探しようもない 季節が変わって 少年は戻った まずいチャーハンを 二人で食べた 帰り道 隣の扉を もう振り向かず 通り過ぎてゆく 聞きたいことなら いくつもあった だけど男が 最後に聞いたのは 「おい」 『はい?』 「お前……名前なんていうねん……」 少年は 少し笑った 『僕ですか……』