
都を離れて 水路を行けば 白き塔影 遠く霞む 舟宿の町 霧待つ岸辺 人は声ひそめ 水面を見る 夕暮れ深き 霧には出ると 誰かが言った 水の歌姫 その歌聞けば 舟は迷いて 岩へ 崖へと 吸い寄せられる 帰らぬ舟の 灯りの数を 岸の祠が ただ覚えている けれどシエラは 耳を澄ませる 噂の奥に 沈む音へ 人を呼ぶ歌か 沈める声か それとも誰かを 帰すためか 川霧のローレライ 水面に立つ影 その声はなぜ 涙のように澄む 川霧のローレライ 誘うというなら なぜその歌は 震えているの 舟は静かに 霧へと入り 櫂の雫が 闇へ落ちる 灯りは滲み 岸は消えゆき 水と空との 境も失せる その時ふいに 歌が響いた 霧の向こうの 白き声 舟人たちは 目を奪われ 舵はゆるやかに 岩へ向かう やめろと叫ぶ 声も遠くて 誰も彼もが 夢を見るよう 水面に立てる ひとりの女 長き髪濡れ 歌い続ける 川霧のローレライ 水面に立つ影 その声は今 何を告げる 川霧のローレライ 聞こえぬ言葉を わたしの弦で ほどいてみせる シエラは胸に マンドリン抱き 震える弦へ 指を置いた 違うと知った あれは違うと 呼ぶ声ではない 拒む声だと 水より歌が 高く昇れば 弦より歌が それに応える 霧の旋律 弦の調べ ぶつかりながら 重なり合う おいでと聞いた その歌の奥 本当の声は そうじゃなかった 戻れと叫ぶ 帰れと祈る その先は岩 その先は死だと シエラの歌が 意味を開けば 舟人たちは はっと目覚める 舵は返され 櫂は水打ち 舟は岩場を 掠めて逃れた 川霧のローレライ 水面に立つ影 あなたは人を 沈めたのではない 川霧のローレライ あなたの歌は 帰りつくための 祈りだった 霧はほどけて 水面は揺れて 女の影は 遠く霞む けれどその目は 恨みではなく 届いた声を 見送るようで 誰が彼女を 怪異と呼んだ 誰がその歌を 呪いとしたか 答えはまだ 水底深く 次の歌へと 沈んで眠る

