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Desert Wind【新・異世界で始める二人旅09】

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V5.5

[Intro] 風の向こうへ Follow the wind Far away [Verse 1] 乾いてゆく 大地の上 ふたつの影が 長く伸びてく 言葉よりも 確かなもの いつの間にか 増えていたね 知らない景色 知らない明日 それでもなぜか 怖くはない [Pre-Chorus] 柔らかな風が そっとさらってく [Chorus] Desert Wind 風に乗って まだ見えない その先へ 揺らぐ世界 ふたりなら 歩いてゆける 隣には 君がいる [Post-Chorus] Far away Follow the wind どこまでも どこまでも [Verse 2] つかめそうで つかめないもの 砂のように 指をすり抜ける ひとつの答え 見つけるたびに また新しい 扉が開く 乾いた空 眩しい光 何もないから 見えるものもある [Pre-Chorus] 変わっていく 風の色 [Chorus] Desert Wind 迷いながら 進むたびに 世界はまた 広がってゆく 言葉にせず 同じ空を 見上げている [Bridge] 遠い記憶 静かな声 砂の下に 眠る秘密 近づくほど 遠ざかるような その答えは まだ・・・ [Final Chorus] Desert Wind 風に乗って まだ見えない その先へ ひとりでは 見つけられない 景色が今 ここにあるから Desert Wind この世界を ふたりで見つけてゆこう [Outro] 風の向こうへ Follow the wind Far away 【Episode Story】 【第9話・Desert Wind】 黎明の印《アルカ》を修復し、二人が街を出てから数日が過ぎた。主人公と巫女は、次の印があるとされる地域を目指して街道を進んでいた。 最初は休むタイミングにもお互いに気を遣っていた。けれど、同じ道を歩くうちに遠慮も少しずつ薄れていた。 「今日は昨日より暑いな。」 主人公が額の汗をぬぐう。 「そうですね。この先はもっと乾いた土地になります。」 「もっと?」 「はい。」 「……聞かなかったことにしたい。」 巫女がくすっと笑う。 「ふふ、前よりずいぶん普通に話してくださるようになりましたね。」 「それは…この前、気を遣わなくていいって言ってくれたから。」 「はい。せっかく一緒に旅をしているのですから、その方が嬉しいです。」 「じゃあ、お言葉に甘えて。」 「ええ、どうぞ。」 「まだちょっと慣れないけど。」 「ふふ、そのうち慣れますよ。」 そんなやり取りも、今では少し自然になっていた。 道の草は、日を追うごとにまばらになった。緑の丘は低い岩山へ変わり、地面には乾いたひびが目立つようになる。風も湿り気を失い、吹きつけるたびに細かな砂を運んできた。 主人公は腰の水筒を振る。 「そういえばさ。」 「はい?」 「旅を始めてから、水で困ったことって一度もないよね。」 「そうですね。」 「最初は、水とか食料とかどうするんだろうって思ってたんだけど。」 巫女は少し笑った。 「食料は確かに大事ですが、水に関しては、私がいますから。」 「うん、やっぱり大きいよ、それ。」 巫女が杖を軽く持ち上げる。 「この辺りまでは、魔法で周囲の水分を集めれば飲み水くらいは問題ありません。」 主人公が首を傾げた。 「周囲の水分?」 「実は、水や氷の魔法は、何もないところから水を作っているわけではないんです。空気や土に含まれている水分を集めて、水や氷として扱っています。」 「へー、そうだったんだ。」 「ですから、私の魔法は森や草原では使いやすいのですが……。」 巫女は乾いた地面を見る。 「ここまで乾いてくると、少し効率が落ちてきますね。」 「じゃあもし砂漠みたいな土地になると?」 「もっと大変ですね。」 「えっ、大丈夫なの?」 「二人で飲む分くらいなら。少し時間はかかりますけど。」 主人公は水筒を見る。 「今まで普通に飲ませてもらってたけど、すごいことだったんだな。」 「ふふ。今気づいたんですか?」 「……ごめん、今気づいた。いつもありがとう。」 巫女が楽しそうに笑う。 「魔法って、戦う時よりこういう時の方が羨ましいかも。」 「以前も使ってみたいと仰っていましたね。」 「だって便利だし。」 「残念ですが、魔力がありませんので。」 「そこはもう分かってるって。」 二人は顔を見合わせて笑った。 やがて地平線の先に、黄土色の壁が見えてきた。その向こうには低い建物が密集し、屋根には日差しを避ける布が渡されている。街のさらに向こうには、見渡す限りの砂が続いていた。 「……着いた。」 主人公が呟く。 「本当に砂漠だ……。」 「私もここまで来るのは初めてです。」 「え、そうなの?」 「はい。家系の記録で地域のことは知っていましたが、この国まで足を運んだことはありませんでした。」 主人公は巫女を見る。 「なんとなく、どこに行っても詳しいのかと思ってた。」 「そんなことはありませんよ。」 巫女は少し困ったように笑う。 「私も知らないこと結構多いんですよ。」 「そっか。じゃあ今回は二人とも砂漠初心者だ。」 「ええ、そうなりますね。」 街へ入ると、まず水を扱う店の多さが目についた。小さな革袋の水にも値段がつき、水瓶の前には人々が並んでいる。 「……水、けっこう高いな。」 「この土地では特に貴重なのでしょうね。」 主人公は巫女を見る。 「魔法が使える人がいても?」 「水魔法を使える方が全員、十分な量の水を集められるわけではありません。ここまで乾いていると、普通はかなり魔力を使います。」 「じゃあ、街ひとつ分なんて無理か。」 「はい…。私でも二人分なら困りませんが、何十人、何百人となれば話は別です。」 主人公は水瓶へ並ぶ人々を見た。 「なるほど……。水が貴重なのは変わらないんだ。」 「そういうことですね。」 二人は宿を取り、その日から印についての情報を集め始めた。巫女の家系に残る記録には、この地域に次の印がある可能性が記されているだけだった。 市場、食堂、古地図の店、書庫。思いつく場所は一通り回った。 一日目。 「古い遺跡? 砂の中ならいくらでもあるよ。」 二日目。 「印って言われてもなあ。そんな話は聞いたことがない。」 三日目。 ようやく、古道具屋の老人が少しだけ反応した。 「砂の奥のことなら、『砂守の民(すなもりのたみ)』が何か知っていたかもしれんな。」 主人公と巫女が顔を見合わせる。 「砂守の民?」 「昔からこの砂漠で暮らしていた連中だよ。砂の流れや風を読むのが上手くてな。街の人間が近づかないような場所にも出入りしていた。」 「今もその方々はいらっしゃるのですか?」 「さあな。昔はこの街にも来ていたが、今じゃほとんど見ない。もう残っていないんじゃないかって話もある。」 それ以上のことは分からなかった。 宿へ戻る途中、主人公は大きく息を吐いた。 「三日かけて、やっと名前ひとつか。」 「でも、手掛かりではあります。」 「うん。砂守の民、か。」 「気になりますね。」 主人公は砂漠の方を見る。 「明日、街の外も少し探してみようか。」 巫女は少し考えてから頷いた。 「そうしましょう。ただ、無理に奥へ入るのはやめましょう。」 「了解」 翌朝。 二人は街で方角を確認し、砂漠へ踏み出した。街道らしい道が残っていたのは最初だけだった。少し進めば、風で消えかけた足跡と砂の起伏が続くばかり。遠くの岩さえ位置が変わったように見える。 「これ、一人だったら絶対迷うな。」 主人公が振り返る。街はすでに小さくなっていた。 「私も油断すると方角を見失いそうです。」 巫女は地図と太陽を交互に見る。 「水、大丈夫?」 主人公が聞く。 「はい。ただ……ここでは少し時間をください。」 巫女が杖を立て、集中する。いつもならすぐに集まるはずの水滴が、今日はなかなか形にならない。しばらくして、ようやく小さな水の球が浮かび上がった。 主人公が目を丸くする。 「本当に違うんだ。」 「はい。ここはかなり水分が少ないので。」 巫女は水を水筒へ移す。 「ということは、氷魔法も同じ?」 「そうですね…。集められる水が少なければ、その分だけ使える氷も限られてしまいます。」 「それじゃあ、この国だと、いつもみたいには戦えないってことか。」 「少し工夫は必要ですね。」 さらに歩いた、その時。風向きが変わった。さっきまで熱を運んでいた風が、急に冷たくなる。巫女が足を止めた。 「……待ってください。」 「どうしたの?」 巫女は遠くを見る。地平線の一部が、茶色く霞んでいた。それは雲ではなかった。巨大な砂の壁が、ゆっくりとこちらへ近づいてくる。 「砂嵐です!」 「え!?」 「街へ戻るのは間に…合わないですね。風を避けられる場所を探しましょう!」 二人は周囲を見回した。岩陰らしい場所はない。砂の壁は想像以上の速さで迫ってくる。 「まずいな……。」 主人公が目を細めた、その時。少し離れた砂丘の向こうに、人影が見えた。 「誰かいる!」 十六、七歳ほどの少女だった。砂色の布を頭に巻き、肩から小さな袋を提げている。こちらに気づくと、一瞬だけ驚いた顔をした。主人公が手を上げる。 「そっちは危ない! 砂嵐が来てる!」 少女は返事をしなかった。二人と迫る砂嵐を見比べてから、短く言う。 「こっち。」 「え?」 「早く。」 少女は踵を返し、砂丘の裏へ走り出した。主人公と巫女は顔を見合わせる。 「行こう!」 「はい!」 三人がたどり着いたのは、砂に半分埋もれた岩場だった。少女は迷いなく岩の隙間へ入り、その奥にある狭い空間へ二人を招き入れる。直後、外が轟音に包まれた。砂が岩を叩き、昼間とは思えないほど周囲が暗くなる。主人公は息を整えながら少女を見る。 「助かった。ありがとう。」 「……別に。」 少女は入口の様子を見たまま答える。 「よくこんな場所知ってたね。」 「知ってるから。」 「……そりゃそうか。」 少女はそこで初めて主人公をまっすぐ見た。しばらく黙っている。 「……何?」 「あなた。」 「うん。」 「魔力、ない。」 主人公は思わず苦笑した。 「やっぱり分かるんだ。」 巫女が少女を見る。 「魔力を感じ取れるのですか?」 少女は小さく頷く。 「少しなら。」 そして、もう一度主人公を見る。 「普通は、こんな人いない。」 「ギルドでも似たようなこと言われたよ。」 「なんで砂漠に来た?」 「まあ……いろいろあって。」 少女は納得していない顔をしたが、何も言わなかった。しばらくすると、砂嵐は少しずつ弱まり始めた。少女が立ち上がる。 「帰る。」 主人公が入口を見る。 「街まで?」 「違う。」 少女は二人を見る。 「あなたたち、この辺り分からないでしょ。」 「……まあ。」 「ついてきて。」 巫女が少し驚く。 「よろしいのですか?」 「また砂嵐が来たら面倒。」 そう言って少女は外へ出た。主人公が小声で巫女に言う。 「結構はっきりした子だね。」 巫女は少し笑う。 「でも、優しい方だと思います。」 「そうだね。それは分かる。」 少女に案内されて砂丘を越えると、岩山の影に小さな住居が見えてきた。砂に埋もれないよう岩を削って造られた、古い家。入口の前には一人の老人が立っていた。少女の姿を見るなり、険しかった表情が少し緩む。 「遅かったな。」 「砂嵐。」 「見れば分かる。」 老人の視線が、主人公と巫女へ移った。 「……そちらは?」 「迷ってた。」 主人公は少し困って頭を下げる。 「助けてもらいました。」 老人はしばらく二人を見た。 「旅人か。」 「はい。」 巫女が答える。 「少し、この地域について調べています。」 「何をだ。」 巫女は一瞬迷ったが、静かに答えた。 「この世界の『五つの印』についてです。」 空気が変わった。老人の表情から、わずかに残っていた柔らかさが消える。少女も祖父を見る。 「……印?」 老人は低い声で呟く。 「誰から、その話を聞いた。」 「私の家系に残っている記録です。」 老人は黙ったまま、今度は主人公を見る。 「お前……魔力がないな。」 主人公は少し驚く。 「その子にも同じことを言われました。」 老人は答えない。 「魔力のない者が、印を探している……。」 その言葉には、明らかな警戒があった。巫女が静かに尋ねる。 「何かご存じなのですか?」 老人はしばらく二人を見たあと、家の奥へ視線を向けた。 「……帰った方がいい。」 「え?」 「印がどこにあるのか、それが何なのか。私は知らん。」 少し間を置く。 「だが、我々砂守の民は、昔から一つだけ教えられてきた。」 老人は二人を見る。 「砂の奥に眠るものへ、むやみに近づくな。」 少女が小さく顔を上げる。主人公は老人を見る。 「それって……。」 「それ以上は話すことはない。」 「でも――」 老人は静かに首を振った。 「帰れ。」 主人公は言葉を止めた。この老人は、長い年月をかけて受け継がれてきた言葉を守っている。それは主人公たちにも分かった。少女は黙ったまま祖父と二人を見比べていた。砂嵐の名残を含んだ風が、岩の隙間を抜けていく。探していた手掛かりは、ようやく目の前に現れた。だが、その手掛かりを守ってきた老人は、二人が先へ進むことを望んでいなかった――。