薄い上着の 袖をまくれば 駅へ続く路地に 青い匂い 眠れぬまぶたを 陽が照らし 燕が低く 屋根をかすめた ポケットの底で 丸まった地図 折り目の先だけ 白く光る 戻る言い訳を ひとつ外して 靴音だけを 連れて出る 錆びた鍵にも 温度は残る 開かぬ扉へ 手を伸ばす 口にしなかった 願いの端が 胸の内側で 熱を持つ 坂の向こうに 朝がにじむ 息を整え 石段を踏む かすれた声も まだ歌える 肩の影より 空は広い 田に張った水が 雲を映して 古い町並みを 淡く揺らす 名刺の角だけ 丸くなっても 俺の頁は 閉じちゃいない 遠回りの傷を 指でなぞれば 悔しさよりも 道幅が増えた 笑われた旗を 鞄に差して 交差点から 日の方へ曲がる 守りの椅子なら 置いてきた ぬるい安心に 背を預けず 季節の端から 吹き込む匂い 冷えた火種を 赤くする 河川敷には 草が伸びて 拾った石が 掌で鳴る 負けた昨日を 袋に詰めて 軽くなった分だけ 登る コンビニ脇の 影を抜けたら 缶の珈琲が 少し苦い 若い頃なら 見落とした色 今の目だけが 拾い上げる 線のない場所へ 一歩を描く 白紙の端に 爪を立てる 大げさじゃない 鼓動でいい まだ燃えるなら 十分だ 薄青い空に 袖を鳴らし 曲がった背中を 起こしてみる 遠い灯台が まぶたにともる 名前のない旅が 始まる 錆びた鍵を 握りしめたら 青い空まで 風が抜けた 荷物はそのまま 軽くなる 帰り道さえ 遠くへ変わる



