暮れゆく空を追い越して 見知らぬ街へ急ぐ足 遠くで弾ける夏の音 人波を抜ける生ぬるい風 浴衣の袖が行き交う中 見上げる空は茜色 胸の奥に浮かぶ顔 その笑顔まであと少し 手のひらに灯る淡い光 耳に残る短い声 夜空にひとつ花が咲き ざわめきの中へ消えてゆく 咲いては消える夏の光 夜空いっぱいに広がる色 君と見上げるはずの空 今はひとりで眺めている 幾千の声が重なる中 聞き慣れた声を探してる この夜がまだ続くのなら もう少しここにいよう 肩をかすめる誰かの影 振り向く先に揺れる髪 見覚えのある細い指 人波に紛れるふたつの背中 呼びかけるには近すぎて 追いかけるには遠すぎる 最後の花が開く頃 足元に落ちる長い影 見間違いならそれでいい 風に流れる髪の色 瞼の裏に焼きついて 何度も同じ夜が咲く 咲いては消える夏の光 夜空いっぱいに散らばる色 綺麗なものほど儚くて 伸ばした指をすり抜ける 幾千の声が重なる中 聞き慣れた声だけが遠い この夜がもう終わるのなら せめて静かに消えてくれ あれは誰 ……いや 何でもない 聞けば済むこと それだけのこと だけど 知らないままで 残せるものもある 咲いては消える夏の光 夜空を埋め尽くす最後の色 君と見上げるはずの空 もう何も映らない 幾千の夜が過ぎようとも 消えないものがあるのなら あの日の君も あの日の空も 綺麗なままで 置いてゆこう 静まり返る帰り道 手のひらに灯る小さな光 耳に馴染んだ同じ声 途切れることなく繰り返す 夜風が少し冷たい きっと そういうことなんだろう ……そういうことにしておこう


