
誰もがつまずかないようにと 磨き上げられた床の上 摩擦のない世界では 立ち止まることさえ許されない かつて壁の落書きのように 誰にも届かぬふりをして 吐き出せた弱音は今 巨大なモニターで裁かれる 「不快だ」と指を刺されるのが怖くて 彼らは口を縫い合わせ 表情筋を凍らせた 清潔な街並みは 異物を排除して広がり続け かつての住人たちは 居場所を探して さまよう ガラス張りの温室は あまりに視界が良すぎて 隠れる場所など どこにも残されていない 「こっちへおいで」と手招きする光の暴力 まぶしさに目がくらんで 後ずさりをした 遮蔽物のない荒野で 僕らは孤独をさらしあう 手を伸ばせば届く距離が 垂直な氷壁に見えた 言葉狩りの亡霊におびえて 沈黙だけが正解になる 不用意な一言が命取りだと 誰もが疑心暗鬼におちいって 拒絶しているのは 世界じゃなく こわばった自分の手足だ つまずかないよう歩幅を合わせ 誰かの正解をなぞり続けた 波風を立てない微笑みだけ 器用に上達していったのに 匿名という薄い鎧を脱いで 素顔で並んだ列のなかで どこにも角を持たない僕は 誰の記憶にも引っかからない 清潔になるほど遠ざかる体温 同化するほど濃くなる孤独 透明になりたかったはずが いつのまにか透明になっていた まぶしさに背を向けたあの日と違う 自分から光へ歩み寄って それでも馴染めない影だけが 足もとに濃く伸びていく 「こっちへおいで」に頷いたのに 立つべき場所が見つからない 温室の内側で凍えている そんな矛盾を誰にも言えず 遮蔽物のない荒野を 今度は目を開けて歩く 届かないとわかっていても 言葉を手放さずにいる 言葉狩りの亡霊を横目に それでも声を絞り出す 不用意な一言が誰かの地図になるかもと それだけを信じて 拒絶していたのは 世界じゃなく こわばった自分の手足だった

