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夏と秋の境界線|お題:ニーナさん

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V6

八月最後の土曜日 商店街の掲示板 祭りのポスター剥がす人 セロテープだけ残ってた 金魚すくいの水槽も 今朝トラックに積まれて 昨日まであった夏の場所 白い四角になっていた 自転車のカゴには 買い忘れた洗剤と 季節外れの花火が二本 値下げシールで眠ってる まだ暑いのに まだ青いのに 何かが少し違ってる 夏と秋の境界線 誰が引いたか知らないけど 風鈴が一度鳴ったあと 虫の声が返事をした 夏と秋の境界線 同じ道を歩いてるのに 昨日と今日の間には 見えない川が流れてる 海へ続く坂道で アイスの棒をくわえた子 溶ける前に食べきれず 笑いながら走ってた 浜辺のシャワーは止められて 砂の上には忘れ物 片方だけのビーチサンダル 波に向かって立っていた 喫茶店の窓際に 冷たい麦茶と温かい珈琲 店主が笑って言ったんだ 「今日はどっちも売れる日だ」 そんな言葉が妙に好きで 僕はしばらく座ってた 夏と秋の境界線 時計には映らない時間 入道雲の向こう側 薄い月が浮かんでる 夏と秋の境界線 何かが終わるわけじゃない 名前を変えた風たちが 同じ町を通り過ぎる 夕方六時十七分 海沿いの踏切が鳴る 遮断機の向こうを走る 窓の明るい普通列車 通り過ぎたそのあとに ふっと静かになった町 セミの声が途切れた場所で コオロギが一匹鳴いた たったそれだけ たったそれだけなのに 僕は季節が変わる音を 初めて聴いた気がした 夏と秋の境界線 どこにも線は引かれてない 花火の匂いを連れたまま 金木犀を待つ街角 夏と秋の境界線 置いていくものなんてない 笑った日も雨の日も 次の季節の中にある もう一度だけ海を見た 夕日はまだ夏の色 だけど伸びてく僕の影は 少しだけ秋に似ていた 自転車のライトをつけて いつもの坂を上ってく カゴの花火が揺れるたび 小さく紙の音がした 帰ったら二本とも 庭で灯してみようかな 夏にさよならするためじゃない 秋に見せてあげるために 最後のセミが鳴いたあと 最初の鈴虫が歌い出す その間の一秒に 僕は確かに立っていた