
『顔の無い約束』 春の野に 花を編んだ 小さな指で 永遠を結んだ 勿忘草の 青い輪を 君は笑って 私にかけた 「大きくなっても そばにいるよ」と 幼い声が 風にほどけた あれは遊びと 誰もが笑った けれどふたりは 誓いと呼んだ やがて君は 鉄をまとい 遠い戦へ 連れて行かれた 帰る道だけ 夜に残して 春は二度と 戻らなかった 顔の無い約束が 夜をさまよう 名を呼べないまま 黒馬を駆る 首のない騎士は 剣を握った 君を守るため 死ねなかった 声を失くしても 誓いは消えない 勿忘草だけが 胸に咲いていた 忘れた私を まだ覚えていた 村は焼けた 鐘は割れた 赤い空から 灰が降った 逃げる私の 背を追う影 冷たい刃が 髪に触れた その瞬間に 蹄が響く 炎の向こう 黒馬が嘶く 首のない影 錆びた鎧 血よりも暗い 夜を連れて 私の前に 立ちはだかり 敵の刃を 闇へ払った 顔の無い約束が 私を守る けれど私は 悲鳴を上げた 救いの腕さえ 化け物に見えて 震える膝で 後ずさった 何も言えずに ただ跪く その黒い手には 青い花の輪 忘れた春が 揺れていた 怖がって ごめんね 気づかずに ごめんね あなたの顔は もう無いのに あの日の花は 残っていた 勿忘草 勿忘草 忘れたのは 私だけだった 顔の無い約束よ 今ならわかる 名を呼べなくても あなたはあなた 首のない騎士が 差し出す花を 震える首に そっと受けた 顔の無い約束よ 私を連れて 黒馬の背で 朝へ走ろう 焼けた村も 泣いた夜も 光の中へ ほどけていく 顔は無くても あなたとわかる 勿忘草だけを 胸に抱きしめ ふたり朝日に 溶けていった 春の野に 花を編んだ Forget me not Forget me not

