[Intro — spoken, rain and low piano] 横浜港。 午前二時十三分。 雨は、三日前から止まない。 ……いや。 止まっているのかもしれない。 アタイの中だけで、ずっと降り続けている。 煙草に火をつける。 風が吹く。 火が消える。 「……チッ。」 「濱さん。」 後ろから、レイの声。 十一歳の少年。 なのに、この港を見つめる目だけは、子供のものじゃなかった。 「眠れないんですか?」 「アンタこそ。」 「僕は慣れています。」 「何に?」 ……沈黙。 「父が帰ってこない夜に。」 [Verse 1] 港の倉庫、錆びた扉。 レイが鍵を開ける。 「どうしてこんな場所を?」 「父の手帳に、住所が残っていました。」 「それだけで来たのかい?」 「あなたが一緒なら。」 「……信用されてるんだか、利用されてるんだか。」 「両方です。」 「生意気なガキだねぇ。」 「よく言われます。」 扉が開く、暗闇。 古い机、壊れた時計。 そして、壁一面に貼られた写真。 幼いアタイ、姉、黒い車、警察官、港。 そして――濱グリコ。 まだ存在していないはずの、濱グリコの写真。 [Pre-Chorus] 「……どういうことだい?」 レイは写真を一枚取る。 裏側の日付、十年前。 「この写真、あなたが名前を変える前のものです。」 「そんなはず……」 「つまり。」 誰かが、あなたをずっと監視していた。 雨の向こうで、誰かが見ている。 消された名前、閉ざされた記憶。 アタイの知らない、アタイの人生。 [Chorus] 誰なんだい? アタイを知っているのは、誰なんだい? 消された名前、消された記憶、消された家族。 全部、嘘だったのかい? 「濱グリコ。」 その名前を呼ぶたび、胸の奥で何かが軋む。 「……アタイは、誰なんだい?」 [Verse 2] その瞬間、奥で何かが落ちた。 ガシャン。 アタイは銃を抜く。 「レイ、後ろに下がりな。」 「分かっています。」 「返事だけは一人前だねぇ。」 暗闇の奥、人影。 一歩、二歩。 そして―― 「……グリコ。」 その声、胸の奥が凍った。 知っている、この声を。 ずっと昔に、聞いた。 「……誰だい?」 人影は答えない。ただ、笑った。 「まだ、その名前を使っているのか。」 銃を握る手が震える。 「アンタ、アタイを知ってるのかい?」 「知っているとも。」 [Break — silence, rain] 照明が消える。 ――銃声。 [Pre-Chorus 2] 「濱さん!」 レイの声、腕を掴まれる。 二人は床に倒れる。 弾丸が壁を撃ち抜く。 沈黙。 そして、足音。 逃げていく。 アタイは追おうとする。 だが、レイが止める。 「追わないで!」 「離しな!」 「罠です!」 「分かってるよ!」 「なら、なぜ追うんですか!」 十一歳の少年、その目に初めて恐怖があった。 「僕は……もう父を失いたくない。」 [Chorus 2] 雨よ、何を隠している? 夜よ、誰を守っている? あの日の記憶は、まだ終わっていない。 消された名前も、消された過去も、 全部、この街のどこかで息をしている。 [Verse 3 — morning, quieter] 朝、事務所。 レイは黙っている。いつもの菓子も食べない。 「アンタさぁ……怖くないのかい?」 「怖いですよ。」 「じゃあ、なんで来た?」 少年は、少しだけ黙った。 「僕の父も、この事件を調べていたからです。」 十年前、僕の父は刑事でした。 そして、この事件の記録を追っていました。 でも――突然、辞めました。 レイは、一枚の古い手帳を開く。 最後のページ。 そこには、たった一行。 「グリコを見つけた。」 アタイの名前。 まだ、濱グリコじゃなかった頃の名前。 [Bridge — quiet piano and sax] 「……レイ。」 「はい。」 「アンタの父親は、本当に十年前に辞めただけなのかい?」 沈黙。 レイは答えない。 そして―― 「父は、死んでいます。」 「……何だって?」 「でも、死体は見つかっていません。」 雨音。遠くで、船の汽笛。 「だから僕は、死んだとは思っていません。」 「……馬鹿だねぇ。」 「そうかもしれません。」 レイは古い手帳を握りしめる。 「でも、父の最後の記録には――」 ページを開く。 『グリコを守れ。』 [Final Chorus] 誰が、アタイを守っている? 誰が、アタイを見張っている? 守るためなのか、消すためなのか。 それとも――真実から、遠ざけるためなのか。 「濱さん。」 レイが言う。 「あなたが、いつか全部を思い出すことを、誰かが待っている。」 そして、その時に―― あなたが何をするのか、見ているんです。 [Outro — rain and low sax] アタイは、窓の外を見る。 横浜の夜。 黒い傘、遠ざかる足音。 そして、手の中の古い写真。 幼いアタイ、姉、黒く塗り潰された男。 「……誰なんだい。」 雨が、写真を濡らす。 「アタイを、ずっと見ていたのは――」 サックスが、一音だけ残る。 暗転。 ――消された記録。 ――まだ、真実には届かない。 [End — whisper] 「濱グリコ……」 「その名前を、誰がアタイに与えたんだい?」 ――To Be Continued.


