
鈍行の窓を袖で拭いた 知ってる山が並んできた 手紙は書いた 出さずに来た 驚く顔が見たかっただけ 「帰る」って言えないまま駅にいた 口より先に手が切符を買った 畦道の先に麦わら帽子 泥のついた手が腰を叩く ここまで来たのに足が止まる ただいまがまだ口から出ない 長靴の泥が乾いてる 発つ朝もあなたは畑にいた 見送りもせず鍬を振ってた 「気をつけて」って背中で言った あの声だけ連れてきた 都会の部屋で目を閉じるたび 鍬の音だけ耳に残ってた 畦道の先にあの背中がいる あの日と同じ鍬を振ってる 何年経っても同じ手つきで ただいまが息と一緒に揺れた 鍬の柄だけ新しかった 鍬が止まった 風が変わった 泥の手のまま こっちを見てる 何か言いかけて 口を結んだ 帽子の影で 鼻をすすった 走った 畦道の泥が跳ねた 「ただいま」って 息が切れたまま 泥だらけの手が 肩を掴んだ 泥のまま抱きついて 何も言わない 肩が震えてた あなたのほうが 畦道に二人 立ったままで 同じ風が首の汗を乾かす 「飯は」って それだけ聞いてきた ここがわたしの ただいまの場所 明日から一緒に鍬を振る 麦わら帽子が 二つ干してあった

