白い廊下を 反復する足音 誰の名前も 脊髄まで届かない 硝子の脳髄 覗く影法師 「あなたは誰?」と 私が先に訊いた 時計の針が 内側へ曲がる 昨日を剥がせば 幼い傷が啼いた 子宮みたいな天井の下で 逆さまの雨を飲み干した 笑っていたのは 誰だっけ 顔だけ浮かぶ 水槽の群れ 廻れ 廻れ 胎内回路 脳に咲く赤い曼珠沙華 愛された記憶から 順番に腐ってゆく ねぇ先生 この世界は夢ですか? それとも 夢のほうが本物ですか? カルテの海に 沈めた指先 ひらがなのような 柔らかな発狂 剥製みたいな幸福ばかり 静脈の奥で 青く酸化してる 産声に似てる耳鳴りの中 私は私を聞き逃した 「ここに居るよ」と 誰かが言うたび 知らない記憶が増殖する 踊れ 踊れ 胎内回路 壊れかけの月経信号 輪郭を失うほど 綺麗になってゆく ねぇ先生 この心は誰のもの? 答えは全部 脳室に沈んだまま 廻れ 廻れ 胎内回路 世界ごと羊水へ還せ 愛される前の 名前に戻れたなら ねぇ先生 最後に残るのは 罪ですか? それとも母ですか? 白い廊下だけが まだ 私を覚えている