君待ち傘 雨の日だけ あなたはいる 古い番傘 人のかたち 放課後の門を 出たところで アスファルトに 雨が跳ねた 傘を持たない 私の横に あなたは静かに 立っていた 古い番傘 傾けながら 「また会えたね」と 笑う人 知らないはずの その声だけが なぜか胸まで 沁みてくる ねえ その傘の半分は 誰のために 空いていたの ねえ あなたの瞳は 私の向こうを 見ているでしょう 君待ち傘 雨の中で 半分だけ 空いたまま あなたは今日も 私の顔に あの子を探す 私はあの子じゃない それでも傘の影から 逃げられない 古い写真の 隅の中で 曾祖母が 笑っていた 袴の裾を 雨に濡らして 番傘ひとつ 肩に寄せて 同じ顔した 若い笑顔 私にどこか 似ている人 あなたはずっと あの雨から 帰れないまま 待っていたの 古い番傘 人のかたち 雨のたびだけ 私を待つ でもその恋は 私じゃなくて 遠い日の 濡れた笑い声 ねえ 私の名前を 一度だけでいい 呼んでほしい 君待ち傘 雨の中で 半分だけ 空いたまま あなたはやっと 私の顔に 私を見つけた 私はあの子じゃない それでもあなたを 雨が止んでも 忘れたくない 君待ち傘 さよならなら どうか 笑って傘を閉じて 次の雨に 迷わぬように 私は晴れた道を 歩いてゆく 雨の日だけ あなたはいた 古い傘は 門のそばで もう 誰も待たずに 濡れていた