[Intro] 今宵の月は ずいぶん霞んでおります ……お嬢様 あなたも 御覧でしょうか [Verse 1] 拾っていただいた この命 飯をいただき 名をいただき 働く場所まで いただいた それだけで 十分でございました 高望みなど したことはない するべきでもないと 知っておりました ただ あなたが笑うたび それだけが 難しくなった [Pre-Chorus] 人混みでは 手拭いの端 「こちらを お持ちください」と この手では あなたを汚してしまうから そう言い聞かせて 本当は 触れれば もう 離せなくなると 知っていた [Chorus] 朧月 遠く霞めど そこにある 名を呼ぶことさえ 許されぬなら 雲の上なる あなたの笑顔 仰ぎ見る身は 月と泥 触れれば濁すと この手を引いて せめて お嬢様と 呼ばせてください あなたは 私には過ぎたる人 それで よかったはずでした [Verse 2] 「立場を弁えろ」 大旦那様は 静かに仰った 「あれは お前には  過ぎたるものだ」 「仕事は与えてやる  望むなら  嫁も見繕ってやろう」 何も 間違ってはおりませんでした 私はただ 頭を垂れて 「心得ております」 それしか 申せませんでした [Pre-Chorus 2] あなたの心には とうに気づいていた だからこそ 遠ざかった あなたの傍にいるほど あなたを欲しがる 己が怖かった 恩を仇では 返せません まして その人の 大切な娘を 奪うなど [Chorus] 朧月 見えているのに 届かない 雲に隠れて なお明るい 寂しき夜には 月を御覧なさい 遠く離れて おりましても 同じ月なら 見られますから 雲の上なる あなたの笑顔 仰ぎ見る身は 月と泥 あの言葉だけ あなたに残した [Verse 3] そして 祝言前の宵 あなたは 私の前に立っていた いつものお嬢様では ありませんでした 震える指で 私の手を取って 「どうか  わたくしを  連れて行ってくださいませ」 初めて あなたの手が この手に触れた [Break] ……温かかった [Bridge] 行きたかった あなたと 何もかも捨てて ただ一人の女として あなたの手を 握り返して 「参りましょう」と 言えたなら けれど 私がその手を取れば あなたは 家を失う 名を失う 父上を失い これまで守られてきた すべてを失う それを 愛と呼ぶことだけは できなかった [Quiet Chorus] 指を一つずつ ほどきながら 「……なりません」 それだけを 申しました あなたは しばらく 私を見て そして いつものように 笑おうとなさった あの顔を 私は 一生 忘れられない [Final Chorus] 朧月 あなたは今も 幸せですか 誰かの隣で 笑っていますか 雲の上なる あなたの笑顔 仰ぎ見る身は 月と泥 あの日 その手を 取らなかったこと 悔やんではおりません 悔やんではならないのです けれど ただ一つ あの夜だけは あなたを 「蛍」と 名で呼びたかった [Outro] 寂しき夜には 月を御覧なさい 私も 同じ月を 見ておりますから 昔 あなたに そう申しました ……お嬢様 あれは あなたのためでは なかったのかもしれません 私が あなたを想っていてもよい ただ一つの 言い訳だったのでしょう 今宵の月は ずいぶん霞んでおります それでも あなたが見ておられるなら 私には 十分でございます