デラシネの肖像 II - 詩篇研究 - 〜とある学生のキャンパスライフ〜 【序文】 この詩篇は、 孤独という実験室で生き残った、ひとりの学生の記録である。 「孤独(ひとりで勉強)の中で── 古読(過去問題集)による 蠱毒(勝ち抜き)の果てに ある わたし」 過去問を喰らい、他者と競い、 それでもなお“ことば”だけを信じようとした若者の、 一時的にコミュ障な学生の物語です。 ――第二話「彼女」との出会い編。 【本文】 [Intro] 風の音 遠くのチャイム。 ひとりの足音が 廊下に響く。 ノートのページをめくる音。 「孤独の中で── 古読による 蠱毒の果てに ある わたし」 [Chorus 1] 言葉は まだ 届かない。 誰かと 繋がる術を 忘れてしまった。 声を上げれば 壊れそうで、 ただ 心の奥で つぶやく。 わたしは ここに いる── それだけが まだ 現実。 [Verse 1] 生活の中の共感より、 学業の中の共感よりも── 趣味による共感のほうが 人は救われる。 わたしは『友達づくり』という、 成立しない 連立方程式を ずっと 解こうとしていた。 広大なキャンパス、閉塞した心。 受験地獄の余熱に 交流を奪われて―― 「友達」という言葉の意味さえ、 きっと誤解していたんだ。 ……滑稽だけど、それこそがリアル。 [Chorus 2] 言葉が 動きはじめる。 虚構の向こうに 誰かの息を感じている。 まだ 誰にも届かない声を 抱きしめた。 わたしは ここに いる── それが 少しだけ 確かになった。 [Bridge 1] サークル棟。 その規模は わたしの想像を 超えていた。 乱立する 個室と扉たち。 何のために来たのかさえ、しばらく忘れてしまうほどに。 無言の廊下。 「〇〇研究」などと名のつく ニッチな世界たち。 『詩篇研究』 そんな表札の扉に、なぜか心を惹かれた。 [Chorus 3] 言葉は まだ 届かない。 誰かと 繋がる術を 忘れたままでも、 壊れそうな声を 振り絞り、 ただ 心の内を つぶやく。 [Verse 2] 【彼女】「うちに 用ですか?」 【わたし】「えっ!?」 【彼女】「違いました?」 導かれるようにして 扉を開けた。 漫画、ラノベ、詩集── ところ狭しと並ぶ蔵書たち。 【彼女】「今 ここには 私しか いません。」 【わたし】「えっ!? あの……ちょっと――」 【彼女】「このサークルは 崩壊しました。」 淡々とそう語る彼女は、 身を乗り出してこう言った。 【彼女】「で、君は──詩を読むの? 書くの? それとも ただ 逃げてきたのかな?」 答えられなかった。 でも、「ここにいてもいいかもしれない」 そう思えた。ほんの少しだけ。 [Chorus 4] 言葉が 動きはじめる。 虚構ではない 誰かの息を 感じ取る。 まだ 誰にも届かない声に 命が宿る。 [Bridge 2] 曰く── 「陰キャの巣窟」と揶揄されていた空間に、 陽キャの新入生が加入した。 それにより サークルの空気は 急激に変化した。 オタクサークル(無菌室)に仮入部(侵入)した姫(ウイルス)は、 瞬く間に すべてを恋に堕とした(罹患させた)。 恋愛経験(免疫)が少ない(弱い)ゆえに、 陽キャ(陽)のボディタッチ(光)は たやすく拡大感染(パンデミック)。 女子部員は 「不潔よ」 そう叫びながら去った。 男子部員は 姫と一緒に消えた。 そして この部屋には 誰ひとり戻ってこなくなった。 わたしは ただ 立ち尽くしていた。 救いを求めて、 ようやく辿り着いた先が、 こんなにも静かで、 こんなにも終わっている場所だったなんて。 けれど ほんのわずかに 残っていた何か── それは、 [Chorus 5] 言葉に 今 芽生えた祈り。 ここに残っている たったひとつの空白── やっと 誰かと 分かち合える余地。 わたしは ここに いる── もう 囁く必要もない。 デラシネ、 もう一度 ここから。 [Solo:Instrumental] [Outro] 【彼女】「ねぇ、もう一回聞くね。 君は──詩を読むの? 書くの? それとも ただ 逃げてきたのかな?」