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火花と馬糞とチンチン電車 〜各駅停車の文明開化〜

V5.5

明治二十八年、京都の町は 琵琶湖の水を引いてきて 電気仕掛けの黒塗りの箱が 敷石の上を走り出す 「火花が出るぞ! 雷獣だ!」と 逃げ惑う町衆 路地の奥 先走り少年が提灯を振り 「電車が来まっせー!」と息を切らす   おっかなびっくりの文明開化 乗るにもちょいと勇気がいるが 動いちまえば風が吹き抜け みんな揃って目を丸くする   足踏みベルが チンチン鳴って 青い火花を散らしながら 木屋町あたりをゴトゴト揺れて 未知の電気に腰を抜かす それでも鉄の箱は ゆっくり前へと進んでゆく     明治三十六年、東京の空は 新橋から品川 海沿いへ 昨日まで走ってた馬車鉄道が ある朝パッと電車に化けた 敷石に残った馬糞の跡を 鉄の車輪が踏み越えて 仕事を奪われた車夫さんたちが 腕組みしながら睨みつける   「感電死するぞ!」とビビり散らかし お札を貼って乗り込む旦那 時代の急ぎ足に追いつけないのは 今も昔もおんなじでさぁ   足踏みベルが チンチン鳴って 馬糞のレールを新橋へとゆく 大騒ぎの町をすり抜けて 軋む木造 各駅停車 怒った車夫のオヤジも いつしか小銭を握りしめてる     夕暮れの停留所、赤提灯が灯り ワンカップのフタを指で弾く 真っ直ぐなレールしか走れない電車が 不器用な俺によく似てるのさ 世の中はどんどん速くなるけれど そんなに急いでどこへ行くんだい   足踏みベルが チンチン鳴って 夕暮れ横丁へゴトゴト揺れる 時代の速さに乗り遅れても 冷や酒呑んで笑っていよう レールの上をただ揺られて 終点まで付き合うとしよう   チンチン… チンチン… 今日も電車が走ってゆく 各駅停車で、いいんだよなぁ…