
実家にいたころ 猫だけが 癒しだった 勉強に疲れ 部活に疲れ 誰にも言えないまま 部屋に帰る夜 ロイコクロリディウム それが あの子の名前だった ロイコと呼ぶと にゃあんと来た ひっくり返して お腹を 何度も吸った やわらかい毛の奥に わたしの疲れが 消えていく気がした あれから時が経ち わたしは就職して 一人暮らし でも このアパートでは 猫が飼えない だから わたしは今も 猫の動画ばかり 見ている その夜も 画面の中で 猫が踊っていた ロイコじゃないのに 少しだけ ロイコに似ていた 短い足で 楽しそうに わたしには届かない キラキラした夢 どうしたら あんなふうに 軽くなれるの 指先で 次へ また 次へ そのまま 見つめたまま わたしは 無意識に 電子レンジの ボタンを押した 少しだけ ドリアを 温める つもりだった 猫舌のわたしにも 食べられるくらいに でも 押していたのは あたためじゃなく オーブンだった 火刑の夜 あなたはただ 少しだけ 温まりたかった わたしは 温めたつもりで あなたを焼いた 優しさじゃなかった これは 熱だった 火刑の夜 チーズは夜空になり ご飯は大地に還った ごめんね まだ少し 湯気が出てる みし ぱき ぼん 長いと 思ったの でも 止めなかった 猫が 踊っていたから 焦げた匂いが 部屋に広がって 細い煙が 隙間から 滲んでいた そこでやっと 気づいたの わたしは あなたを 温めてなんか いなかった わたしは急いで 蓋を開けたの なだれ出す 煙と匂い あなたの名前を 叫んだ 何度も 何度も 伸ばした手は 熱くて 引っ込んだ ごめんね そこまで 来ていたのに わたしはまだ あなたに 触れられなかった 鍋掴みを 使ったわ やっと あなたを 取り出した でももう あなたの家は 歪み チーズは 夜空になり ご飯は 大地に 還っていた ファラリスは こんな気持ちだったのかしら いいえ 違う わたしはただ 温めたかった あなたの悲鳴が 聞きたかったんじゃない それなのに あなたは ファラリスの牛の中で 悲鳴を あげていたのに わたしは 関心さえ 示さなかった ただ 踊る猫に 踊らされていたの ねえ ファラリスの結末を 知ってる 罪を作った者は 最後に その中へ入れられる ならば わたしも レンジの中でチンされる べきなんだわ マイクロ波の 業火の中で 一緒に 踊りましょう みし ぱき ぼん 灰の上で 踊る猫 それが その日見た わたしの夢だった

