
Alley Bar №87 Act.4
+ Show full styles
V4.5+
雨音が、ガラス越しに低く響いていた。 ジャズは遠くでくぐもり、煙がゆっくりと漂う。 グラスの縁に、夜が沈んでいる。 俺は、その底を覗き込んでいた。 静寂が、言葉を呑み込んだ。 何かが、近づいていた。 この街は、俺を眠らせる気がない。 冷えた風が、心を裂く。 厄介ごとは、忘れたころにやってくる。 ドアの向こうで、息を潜めて。 女は、ギムレットを飲み干し、 グラスを静かに押しやった。 その仕草に、諦めと決意が同居していた。 「……探しているのは、俺か?」 答えは、煙に溶けて消えた。 視線の奥に、託されたものがあった。 雨が、街を洗い流している。 ジャズが、鼓動を煽る。 静かな夜ほど、危ういものはない。 風が、ドアを叩く音がした。 ベルの音、冷たい風。 黒いコートが、煙を裂く。 獲物を探す、獣の目。 夜が、牙を剥いた。 この街が、俺を試している。 潮の香りが、記憶を刺す。 この夜は、まだ終わらない。 俺は、ひとり呟いた。 (続く…のか…)

