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水槽の向こうで待ち合わせ

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V6

入口でもらった半券を ポケットの奥にしまった 少し冷えすぎた館内で 最初に会ったのは小さな魚 名前を読んでも 五秒後には忘れてる それでも君は堂々と 難しい顔で泳いでる 大きな水槽の前 子どもがガラスに手をつけた その向こうから 魚が一匹やってきて お互いじっと見つめてる どっちが 見られてるんだろう 水槽の向こうで待ち合わせ 約束なんてしてないけど 今日ここに来なかったなら 会えなかった命が泳いでる 知らない名前の魚でも なんだか少し気になって 気づけば僕も ガラスの前から動けない クラゲの部屋は静かすぎて みんな声まで小さくなる ふわり ふわり 急いでる人間なんて ちょっと馬鹿みたいだ 時計も予定も知らない顔で 上がったり 沈んだり あんなふうに生きたら 遅刻ばっかりしそうだけど 今日くらいなら それもいい ペンギンは歩けば危なっかしくて 水に入った途端 別人になる さっきまでのヨチヨチは いったい何だったんだ イルカが水面を飛び越えて 歓声より先に水しぶき 前の席の人たちが びしょ濡れになって笑ってる 僕は少し離れたところで 安全な顔して笑ってる 水槽の向こうで待ち合わせ 次は誰に会えるかな サメは思ったより静かで エイは空みたいに泳いでる 怖いとか 可愛いとか 勝手に決めて来たけれど 本物を目の前にすると だいたい全部 予想と違った 大水槽の前で 少しだけ足を止めた 何百匹もいるのに ぶつからないのが不思議だった 同じ方向へ行く魚 ひとりだけ 逆へ行く魚 あ なんかあいつ 好きかもしれない 出口が近づいて 明るい外が見えてくる 来たときよりも ポケットが少し重い 半券ひとつしか 入ってないはずなのに 水槽の向こうで待ち合わせ 今日はもうお別れだね 僕のことなんてきっと 誰も覚えちゃいないけど それでいい 僕のほうが覚えてる 名前を忘れたあの魚も ずっと眠そうだったアザラシも 自由すぎるクラゲも 逆向きに泳いでたあいつも 外に出たら いつもの世界 車が走って 信号が変わって みんな急いで歩いてる なのに僕だけ まだ少し 水の中にいる