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葛の葉の独考(ひとりかんがえ)

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只野 真葛 「当代随一の文豪・曲亭馬琴が激怒しつつも、 その圧倒的な才気に驚嘆し、長大な批評文を認め 生涯忘れ得ぬ存在として、交流を深めた女性思想家」 奥州の 雪のしじまに 筆を執る 偽りなきは 日々のまことよ あだなせる 契りを捨てて みちのくへ 腹痛まぬ 子らを抱きて 凍つる手に 飯を盛りつつ 筆執らす 米一粒の 重み知る手よ 天下を語る その前に 人は飯食ひ 生きるもの 腰に佩く 刀の誇り 高けれど 商人の 銭に縋りて 首を垂る 清貧と 言ひ繕へど 腹は空く 虚名を飾る 男らの 哀しき知恵の 浅ましさ 台所の窓 透きて見ゆ 汲み上げし 井桁の水に 映る影 ゆらぎもせざる 天の月 仁義を説きて 民を飢ゑしむ 机上の空論 誰がため 命を育む この掌に かなふ理 ありやなし 江戸の文豪 我が『独考』を 読み咎め 「男魂あり」と 筆を荒らすも 己が掟を 守らんとする 幼き意地と 見透かして ただ微笑みて 筆を措く 雪晴れの空 澄み渡り 男たちは書物を積み上げ、己が正しさを競ひ合ふ されど、米を炊き、針を運び、子を育てる日々の底にこそ、 隠しようもなき 世の真実がある 飾られた言葉を剥ぎ取れば、 残るものは ただ、ひとつの命の重さ 葛の根の 深き大地に 咲く花は 風雪受けて なほ揺るぎなし 曲がらぬ心 放つ光は 二百の年 貫きて 迷へる人の 世の闇を 静かに射抜く 鏡とならむ 淡々と 夕餉の煙 立ち昇り 我が書置きし 一筋の道 ……知る人ぞ知る 世のまこと