
荷物をまとめる あなたの背中を わたしはただ 見ていた 二人で選んだカップ 二人で買った毛布 二人で撮った写真だけが まだ笑っていた 最後の箱を 閉じる前に あなたは少しだけ 振り返った ごめんねと 言わないまま あなたは 去って行った 山で暮らすと 言って わたしたちには 決定的な 違いがあった それは たったひとつの 甘い境界線 同じチョコを 好きだったのに 同じ棚に 並んでいたのに あなたの手は 山へ伸び わたしの手は 里を離せない 同じ甘さだったのに 同じ夜を過ごしたのに 選ぶ箱だけで こんなにも 遠くなる 同じチョコだったのに 同じ棚にいたかったのに あなたは山を選び わたしは里で泣いた もう 同じ棚には 帰れない あなたは言った 傘の形が 好きなんだと 細い軸が いいんだと チョコとクラッカーが 分かれているから 美しいんだと わたしは笑った 笑えた ふりをした でも本当は 胸の奥で 少しずつ 崩れていた わたしには 甘い傘がないから 雨のように降るチョコを 受け止める 丸い形が ないから わたしには 細い軸がないから あなたが指先でつまむ あの頼りなさも あの愛おしさも ないから だから 駄目なの そりゃ チョコの量は きのこの方が お得かもしれない わかってる あなたが言っていた その境目が いいんだって わかってる つもりだった でも クッキーの美味しさは たけのこだって 同じなのに ざくっと崩れるたび ちゃんと甘かったのに あなたの好きな形に なれなかっただけで わたしの甘さまで なかったことにしないで 同じチョコを 好きだったのに 同じ棚に 並んでいたのに あなたの手は 山へ伸び わたしの手は 里を離せない 口の中で溶ければ 境界なんて ないはずなのに あなたは山を選び わたしは里で泣いた もう 同じ棚には 帰れない 空になった部屋で 写真立てを伏せた あなたの笑顔も わたしの涙も 甘い記憶のまま 少しだけ 溶け残った だけど それでも わたしは立つ あなたと違って わたしはまだ 育つことが できるから 土の中で 泣いていた日も 選ばれなかった夜も 全部 根に変えて もっと もっと 伸びていく いつか あなたを見下ろして 言うの こんなにも 大きくなったよって 甘い傘がなくても 細い軸がなくても わたしは わたしの形で 空へ届く あなたが選ばなかった この里の土から わたしは まっすぐ 生えていく 同じチョコを 好きだったから 同じ棚に いたかったから あなたの山を 憎めなかった わたしの里を 捨てられなかった 恋は溶けて 箱だけが残る 甘くて 苦くて くだらなくて それでも本気で 愛していた さよなら 山のあなた わたしはここで 育っていく いつか 遠くからでも 見えるくらいに 大きく 大きく なってみせる 同じ棚には もう帰れない でも 同じ甘さだったことだけは 忘れないで

