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夢幻郷 // Music from the Story // 楽園の歌

V5.5

二人が初めて出会ったのは、丘の上に広がる草原だった。 風に揺れる一面の緑。 どこまでも続く青い空。 蒼太はその丘で音楽を聴きながら 読書をするのが好きだった。 彼女——月花(ルカ)は、自然に話しかけてきた。「何読んでるの?」 覗き込む彼女は輝いていた。一瞬で心を奪われた。 今思うと偶然だったのか?いや、そうではなかったのか…。 だけど、月花との生活は楽園そのものだった。 陽だまりの中で笑い合い、 蒼太は彼女の髪に触れ、 歌を口ずさむ。 近くに置いたラジオから流れていたのは、二人が好きだった「Heaven’s Door」。ひとつのイヤホンで寄り添って聴いていた。 何気ない毎日。 何気ない会話。 何気ない幸せ。 それが、永遠に続くと思っていた。 けれど蒼太は、いつからか気づいていた。 月花には、自分には話せない何かがある。 時折見せる不安な表情。 突然途切れる会話。 誰にも見せない手紙。 それでも蒼太は、問い詰めなかった。 今、月花がここにいる。 自分を愛してくれている。 それだけでよかった。 たとえ、この暮らしが偽りだったとしても―― 二人の間にあった愛だけは、本物だった。 そしてある日。 月花は突然、姿を消した。 何の説明もなく。 何の別れもなく。 蒼太は薄々わかっていた。 いつか、この日が来るかもしれないと。 それでも、心のどこかで月花が戻ってくることを信じていた。 蒼太は彼女が行きそうな場所を、一つずつ探した。 かつて一緒に旅した場所。 思い出の街の公園のベンチ。 月花が好きだった景色。 手掛かりを求めて、何度も何度も歩いた。 けれど、どこにも彼女はいなかった。 そしてある日、ふと思う。 あの丘。 二人が初めて出会った場所。 もう一度、行ってみよう…。 月花は、必ずそこに行くはずだ。 蒼太は走った。 息が切れても、足が痛んでも、ただ走った。 丘の上に着く。 風が吹いている。 草原は、あの日と同じように揺れていた。 けれど―― 月花はいなかった。 ただ、あの大きな木だけが、何も変わらずそこに立っていた。 その木の根元に、一通の封筒が置かれていた。 蒼太は震える手で封筒を開く。 そこには、月花が隠していたすべての真実が書かれていた。 そして最後に、短い一言だけ。 「ごめんね。」 蒼太は手紙を握りしめる。 怒りはなかった。悲しみだけでもなかった。 ただ謝りたかった。薄々気づいていたのに、気づかないフリをしていた。「ごめんね…」 あの日々が偽りにはどうしても出来なかった。月花は苦しんでいたのに思い出を優先してしまった。 月花の笑顔も。 触れた手も。 一緒に聴いた歌も。 全部、本物だった。 蒼太は空を見上げる。 そして、もう一度走り出す。 行き先はわからない。 月花がどこにいるのかもわからない。 それでも、探すことをやめることはできなかった。 いつか、また会えると信じて。

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