
スーパーの隅で 声をかけられた 新商品です どうぞひと口 差し出されたのは 小さなカップ なのに中身が 少しまぶしい 今日の私は 何も買えなくて 決めることさえ 重たかった 棚の前では 立ち止まるだけ カゴの中身も まだ空っぽだ 試してみますか その一言が なぜか胸まで 届いてきた 無料ならまあ 失敗しても いいかもしれない そう思った 勇気をひと口 もらってみる ほんの少しで 喉があたたかい 勇気をひと口 もらってみる 大げさなくらい 景色が変わる 勇気をひと口 もらってみる 明日全部を 変えなくていい ひと口ぶんだけ 前へ出たなら 今日はそれでも 充分だった 店員さんには ただの試食で 私にとっては 小さな事件 味の感想を 聞かれたけれど うまく言葉に できなかった 買うかどうかは また別だから 無理に決めなくて いいですよ その言葉まで 袋に入れて 持って帰りたい 気分だった 勇気をひと口 もらってみる 怖さが全部 消えたわけじゃない 勇気をひと口 もらってみる それでも足が 少し動いた 勇気をひと口 もらってみる 未来はまだ 試食の途中 気に入らなくても 戻ればいいし もう一度なら 選び直せる レジへ向かうと カゴの底には ひとつだけ品が 増えていた 勇気そのものは 売ってないけど 自分で選んだ 何かがあった

