僕は時間を操れる 僕はひとつ、 時間と遊ぶ秘密を知っている。 時計の針になんて 触れなくていい。 過ぎた日々を振り返れば、 何年だって数秒で駆け抜けていく。 終わらないと思っていた夜さえ、 今ではひとつの思い出に収まっている。 君の笑い声。 なんでもない、二人の会話。 あんなに長く感じていたものほど、 思い出すと、あっという間だ。 過去は駆けていく。 未来は、なかなかやって来ない。 だから時間を遅くするのに、 大したことをする必要はない。 君にまた会える日を待つ。 君の声を思い浮かべる。 次に会える時のことを考える。 それだけで、 一秒がそこに居座って、 どこまでも伸びて、 わざとゆっくり進んでいく。 まるで時計が 僕に嫌がらせをしているみたいに。 君を待つと、時間は遅くなる。 ほらね。 僕は時間を遅くした。 なのに、 君が隣にいる時だけは、 時計の針が 仕返しをしてくる。 「おはよう」と言ったばかりなのに、 もう帰る時間がやって来る。 帰り道、 今日のことを思い返す。 確かに何時間も一緒にいたはずなのに、 もう、ほんの一瞬しか残っていない。 だったら、もしかすると 僕は間違っていたのかもしれない。 時間を操っているのは、 僕じゃない。 君だ。 君を待っていると、 一日は途方もなく長くなる。 二人のことを思い出せば、 その途方もない時間が一瞬になる。 君に会いたいと思うほど、 明日は遠ざかって、 君との時間を思い出すほど、 昨日はすぐそばにやって来る。 それでも時計は、 何ひとつ変わっていない。 今なら分かる。 時間を操る秘密。 時間を遅くしたければ、 君を待てばいい。 時間を速くしたければ―― 僕らのことを、 思い出せばいい。


