
5秒後にスキップできます スーツを脱いで ベッドに放り投げる 何が もう一軒だ 下心 見え見えなんだよ 生意気な 後輩の男の子 二人で 抜けちゃいましょうよ とか言う そんなに 安い女に見える? 二十八歳独身 楽しみは ハイボール片手に 心霊動画を 見ることだけ 部屋の電気を 消したまま イヤホンを 耳に押し込む なのに 頭によぎるのは あいつの 笑った顔 なんだかんだ あたしも 気があるのかな いや ないない たぶん ない 動画が言う もう一度 ご覧いただこう 子どもの後ろに 何かがいる 気がする 息を止めて 画面に近づいた その瞬間 爆音の広告 飲んでた ハイボールを吹き出す 心臓が 早鐘を打つ 画面の中で 両目に カードを貼った男が 満面の笑みで こっちを見ていた 今なら ポイント五倍です あたしの心臓は 十倍速くなったわ 幽霊は 画面の奥にいた でも あたしを殺しに来たのは 音のでかい 広告だった 五秒後に スキップできます その五秒が やけに長い スキップを押したら 画面が止まる 丸い矢印が ぐるぐる回る やめてよ あたしの頭も 今そうなってる やっと 動画が戻る 子どもの背後で 女が笑う こわっ これ 本物? そう言った瞬間 また 画面が暗くなる 五秒後に スキップできます またかよ 今度は 転職広告 あなたの仕事 本当にこのままでいいですか やめてよ それ 今聞くこと? こんな会社 転職してやろうかな 何度も 思ってた パワハラ上司 生意気な後輩 でも 転職したら あいつにも 会えなくなるのかな 幽霊より 広告より あいつの顔が 消えてくれない 動画の中で 女は 子どものそばで 笑っていた 怖いはずなのに 少しだけ 羨ましかった あたしも いつか 子どもと一緒に 笑ってるのかな そんなこと 思った自分に 一番 びっくりした 結婚願望が ないわけじゃない タイミングがないだけ そう言い聞かせてた 動画の幕まで 同時接続していた スマホの 通知音に 体が跳ねた あいつからだった 先輩 起きてますか 今度 飯行きましょう 五秒後に スキップできます 人生も そうならいいのに 仕事も 恋も 迷った夜も 吹き出したハイボールも 五秒で 飛ばせたらいいのに でも スキップできないなら あたしは スマホを手に取った 今度 二人で飲みに行こうか そう打って 送信を 押そうとした その瞬間 画面の中で 両目に カードを貼った男が また 笑った

