マヨイガ ほおずき灯る 夕間暮れ 潮の向こうで 戸が開く おいで おいで 迷い子よ 帰る道など 聞かぬまま 迎え火揺れて 浜の果て あなたは今年も 戸口に立つ 知らない顔で わたしを見る なのに瞳は 懐かしい 名を呼びかけて 飲み込んだ その名はまだ あなたのものじゃない 梁の上で 小鬼が笑う 「あれは人の子 結ばれることなどない」 鈴が鳴る 潮が鳴る それでも胸は 嘘を知らない あなたが忘れても わたしは覚えてる 初めての顔で また恋をくれる 忘れても 忘れても 盆の夕べに 辿り着く ならば今宵だけ 名もなきままで わたしの夢に 触れていて 盆提灯の 赤い息 あなたは問うの ここはどこかと わたしは笑って 杯を置く 去年もここで そう笑った 初めましてと あなたが言うたび わたしは去年を 飲み込んでいる あなたが忘れても わたしは覚えてる さよならさえも 覚えぬままで 迷い家の招きに 気づかぬまま あなたは今年も 戸を叩く 覚えないで 覚えていて どちらも言えぬ 恋でした 小鬼よ 笑うなら笑え 人の子ならば なぜ帰る 忘れたはずの この戸口へ 幾年の夏を 越えてくる 生きてきたのか 送り火なのか 潮の底では もう分からない あなたが忘れても わたしは覚えてる そう思っていた 幾年の夏 けれど今宵の あなたの瞳は 帰る道より 奥を見てる 忘れたのではなく 帰ってきたのね 現世の夢を ひとつずつ置いて 迷い家の呼び声は 送り火を越えて あなたの影を こちらへ招く おかえりなさい おかえりなさい やっと言えた この言葉 初めましての夏が 静かに終わる もう忘れなくていい もう帰らなくていい ほおずき灯る 迷い家に 送り火ひとつ 海へ流れる おかえりなさい ようこそ幽世へ