
『花粉歳時記』 春は霞に 桜がにじむわ 日本の四季は 美しいのね 春は桜に 風が微笑むわ けれど私は スギからヒノキね 鼻は湖 目は夕暮れなの ティッシュの箱を 抱いているのよ 夏は青田に 光が跳ねるわ けれど私は イネ科に負けるの 麦茶片手に 鼻をかむたび 青い空まで 少しにじむのね 今の時期も 花粉あるの 笑って聞かれる そのたびに 私は静かに 箱を引くの 一枚 二枚 まだ足りないわ 四季はめぐるのね 鼻もめぐるのね 春夏秋冬 ティッシュを抱いて 花は咲くのに 目は開かない 日本の四季は 鼻にしみるわ 四季はめぐるのね 私も揺れるのね 美しい国の 美しい風 だけど私に 吹いてくるのは 花粉と涙と 鼻水なのね 秋はすすきに 夕日が沈むわ けれど涙は 情緒じゃないの ブタクサのせいで 目がかゆいのよ 虫の音さえも かすんで聞こえるわ 冬は静かに 部屋へ逃げ込むの 外が駄目なら 中ならいいでしょう だけど埃が 白く舞い上がり カーテンまでも 敵になるのね 私は季節を 愛したいの 紫陽花も 紅葉も 雪の朝も だけど季節は 私の粘膜を 愛しすぎて 離してくれないわ 四季はめぐるのね 鼻もめぐるのね 春夏秋冬 ティッシュを抱いて 花は咲くのに 目は開かない 日本の四季は 鼻にしみるわ 四季はめぐるのね カレンダーだけが 私を置いて 先へ進むわ だけど私の 鼻腔の中で 春だけずっと 終わらないのね 今日も四季は 美しいわ 私は静かに 薬を飲んで 鼻で笑って 鼻をかむのね

