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■ 陰陽師 久坂玄庵 (独白)

V4.5-ALL

■【陰陽師 くさか げんあん(久坂 玄庵)の独白】 私はこの江戸の世に、陰陽師として生を受けた。 名は久坂玄庵。表向き吉原の裏に小さな陰陽堂を構える、胡散臭い術者じゃ。 この時代に生まれ変わって、最初にさと(悟)ったことはひとつ。 「力なき者は、ただの塵である」ということじゃ。 だから私は、知と術と人心を武器に生き抜くことを決めた。 侍のような刀は持たぬ。代わりに星の動きと古の呪文、そして人の弱さを知る。 生き抜くための基本方針は「深く潜り、浅く関わる」こと。 大名や将軍の側近くには決して寄らぬ。代わりに、町人や遊女、落ちぶれた武士など、 表舞台に立てぬ者たちの悩みを聞き、祟りや病、恋の病を「祓う」ふりをして金を取る。 税など金で解決できるものは、金で流す。 疫病が流行れば「これは星の祟りじゃ」と言い、 高価な護符を売りながら、実は清潔な水と薬草を勧める。 具体的な対策としては、 常に複数の「隠れ家」を持ち、 火事や一揆が起これば即座に逃げられるようにした。 病気対策は特に力を入れ、蘭学の書物を密かに集め、 表では「陰陽のじゅつ(術)」と称して本物の知識を使った。 災害/地震/洪水のぜんちょう(前兆)は星読みで 察知し、早めに高い土地へ避難する。 想定外の出来事で一番恐ろしかったのは、 幕府の密偵に「妖しき術者」として 目をつけられたことじゃ。 その時はわざと大袈裟に失敗した呪術を見せ、 「ただの詐欺師じゃ」と見くびらせて難を逃れた。 もう一つは、惚れた遊女が心中を迫ってきた時。 私は彼女をあんこ…ではなく、 「お前の未来は星が明るい」と嘘を吐いて、 金を与えて吉原から逃がした。 結果、私は金と心を少し失った。 メリットは、知識を貪れることと、人々の本音を聞けること。 デメリットは、常に「異端」として生きなければならぬ孤独と、 本物の術など存在せぬ虚しさじゃ。 夜な夜な星を見上げながら、 「俺は何を祓っているのか」と虚しくなる。 この時代で救いたいものは、 無知と迷信に塗れた人々の「少しだけの希望」じゃ。 切り捨てるものは、救えぬ愚かさと、己の甘さ。 私にとっての幸福とは、 静かな夜に一人で酒を飲みながら、 「今日も何人かを騙し、何人かを救った」とほくそ笑むこと。 完全な善でも悪でもなく、 曖昧な灰色として生きること。 それが私の幸福じゃ。 最後に—— この人生で得たもの。それは 「人は簡単に救われも、堕ちもする」という、 冷たくも優しい真実じゃ。 ……ふぅ。 【追加・最終部分】 ……この人生も、もうすぐ終わりじゃ。 星は冷たく、世は相変わらず愚かで、 人は簡単に傷つき、傷つける。 私は結局、誰かを本当の意味で救えたことなど 一度もなかったのかもしれん。 ただ、嘘と真実を巧みに織り交ぜ、 少しだけ希望の形を貸してやっただけじゃ。 それでも、 最期の夜、陰陽堂の軒先で独り酒を飲みながら思う。 もしも、誰か一人でも、 私が与えた偽りの護符を握りしめて、 「明日も生きてみよう」と思ったのなら—— それだけで、十分だったのかもしれん。 私は善人ではない。 だが、完全に悪にもなれんかった。 ただの、曖昧な影のような男じゃ。 ……せめてもの情けに、 死ぬ間際に一つだけ、本物の術を唱えようと思う。 「この世のすべての愚か者どもに、 ほんの僅かでも、光が届かんことを」 それは呪いか、祈りか。 私自身にも、もうわからん。 ただ、星が少しだけ優しく見えた夜に、 私は静かに目を閉じるつもりじゃ。 ……これが、私の江戸の人生。 得たものは、ただの「生の重さ」と、 捨てきれなかった「ほんの少しの優しさ」だけやった。 ズズズ…