Song Cover Image

ういろううり ~uirō Vendor~ 【序】The One Who Sells Words

+ Show full styles
V4.5

拙者(せっしゃ)、親方と申すは、お立ち会いの内(うち)に、ご存じのお方もございましょうが、 お江戸を立って、二十里上方(かみがた)、相州(そうしゅう)小田原、一色町(いっしきまち)を、 お過ぎなされて、青物町(あおものまち)を、登りへお出でなさるれば、欄干橋(らんかんばし)、虎屋、 藤右衛門(とううえもん)、只今は剃髪(ていはつ)いたして、円斎(えんさい)と名乗りまする。 元朝(がんちょう)より、大つごもりまで、お手に入れまするこの薬は、 昔、陳(ちん)の国の唐人外郎(ういろう)という人、わが朝(ちょう)へ来たり。 帝(みかど)へ参内(さんだい)の折りから、此の薬を深く篭置(こめおき)、 用ゆる時は一粒(りゅう)づつ冠(かんむり)のすきまより取り出す。 よって、その名を帝より項透香(とうちんこう)と結(たま)わる。 即(すなわち)、文字(もんじ)には、頂きすく香(におい)と書いて、項透香(とうちんこう)と申す。 只今は、この薬、殊(こと)の外(ほか)、世上(せじょう)に広まり、ほうぼうに似(にせ)看板を出(い)だし。 いや、小田原の、灰俵(はいだわら)の、さん俵(だわら)の、炭俵(すみだわら)のと、色々に 申せども平仮名を持って、ういろうと記(しる)せしは親方円斎ばかり。 もしや、お立ち会いの内(うち)に、熱海か塔ノ沢へ湯治(とうじ)にお出でなさるるか、 または、伊勢参宮(さんぐう)の折からは、必ずお門違いなされまするな、 お登りなら右の方、お下りなら左側、 八方(はっぽう)が八棟(やつむね)おもてが三棟(みつむね)、 玉堂造(ぎょくどうづく)り、破風(はふ)には、 菊のとうの御紋(ごもん)を御(ご)しゃめんあって、 系図正しき薬でござる。