
Norna(ノルア)【新・異世界で始める二人旅14】
[Intro] 静かな砂の中で 眠っていた記憶が 遠い風を越えて 今目を覚ます [Verse 1] 失ったと思った あの感覚が 届かない風を 追いかけた日々 揺れる砂の向こうで 伝えていた声 まだ消えていないと そっと響いていた [Pre-Chorus] 守りたいものがある その想いだけが 長い夜の風を 明日へ変える [Chorus] 遥かな時を越えて 受け継がれる願い 消えかけた誰かの命に もう一度灯る 誰かを想う心が 奇跡をつないでいく 小さな炎でも 未来を照らすから [Verse 2] 言えなかった言葉が 風に溶けていく 離れることでしか 守れないものもあった 砂に消えた記憶さえ 恐れない心 その意味を今 やっと知った [Pre-Chorus] ひとりで背負った その風も いつか誰かの 息吹になる [Verse 3] 砂に刻まれた 名もなき願いたち 誰かが守った記憶 風がつないだ命 [Pre-Chorus] 特別な力じゃない 選ばれた運命じゃない 守りたい想いが すべてを動かす [Last Chorus] 遥かな時を越えて 重なる幾つもの想い 砂に刻まれた道が 未来へ続いていく 失われた記憶も 閉ざされた願いも 僕らが受け継ぐなら 再び輝き出す Open the gate Awaken the memory その名を今刻む Norna [Post-Chorus] Norna Echo of the ancient light Norna Guide us through the night [Outro] 砂の向こうで 風が続いている 遠い記憶の歌が 今動き始める 【Episode Story】 【第14話・Norna(ノルア)】 静まり返った地下空間に、砂が落ちる音だけが響いていた。崩れ落ちたヴァルザの身体は、もう動かない。大量の砂となった巨体は、ゆっくりと一点へ集まっていく。そして次の瞬間、そこに残ったのは、巨大な魔石だった。主人公は、その魔石を見上げる。 「……大きい。」 今まで見た魔石とは、明らかに違う。魔物の強さは、残された魔石に表れる。それを知っているからこそ、改めて思い知らされる。自分たちは、どれほど危険な相手と戦っていたのか。 「これだけの魔石を残すなんて……。」 巫女も静かに魔石を見つめた。 「ヴァルザは、それほど大きな力を持っていたということですね……。」 主人公は苦笑する。 「正直、最後まで勝てるか分からなかったよ。」 そして、砂守の少女を見る。 「でも、君が砂の流れを見つけてくれたから。」 少女は少しだけ目を伏せた。 「……私だけじゃない。」 一拍。 「三人だったから。」 短い言葉。けれど、その声にはもう迷いがなかった。巫女は静かに石碑へ向き直る。 「でも、まだ終わっていません。」 その先にあるのは、弱々しい光を残した古い石碑。第二の印。 「記録では……。」 巫女は刻まれた文字を確認する。 「この印は、古律(こりつ)の印《ノルア》と呼ばれています。」 「ノルア……。」 主人公はその名前を繰り返した。《アルカ》と同じように、古い記録に名前だけが残されていた印。しかし、その光は今にも消えそうだった。 「このままでは、印としての力を失ってしまいます。」 巫女は杖を構える。 「修復を試みます。」 その時だった。 「――待て!」 低い声が地下空間に響いた。三人が振り返る。崩れた通路の向こう。砂にまみれた老人が立っていた。砂守の少女が目を見開く。 「……じいちゃん。」 砂守の老人は少女を見る。怪我がないことを確認すると、わずかに表情が緩んだ。 「……無事だったか。」 次の瞬間、老人の視線は周囲へ向いた。崩れた石柱。砕けた床。壁に残る巨大な爪痕。そして、中央に残された巨大な魔石。老人の表情が変わる。 「……これは。」 ゆっくりと魔石へ近づく。足元に残る砂へ手を触れる。目を閉じる。長年、砂漠で生きてきた砂守としての感覚。残された砂の流れから、ここで起きた戦いを読み取る。やがて老人は顔を上げた。 「……お前たち。ここで、何と戦った…。」 主人公が答える。 「砂嵐の原因です。」 老人の目が細くなる。 「砂嵐……。」 「最近、この砂漠で起きていたものを起こしていた魔物です。」 主人公は魔石へ視線を向ける。 「こいつを倒しました。」 老人はしばらく黙って魔石を見る。やがて、小さく呟いた。 「……そうか。」 その声には、驚きと、わずかな安堵が混じっていた。 「やはり、何かがおったのか。」 少女が振り返る。 「じいちゃん……知ってたの?」 老人は首を横に振る。 「いや。」 砂を握る。 「正体までは分からんかった。じゃが……。」 老人はゆっくり顔を上げる。 「最近の砂は、おかしかった。風の流れも、砂の動きも、自然のものではなかった。」 少女は黙って聞いていた。老人は彼女を見る。 「だから言ったんじゃ。近づくな、と。」 少女は少し視線を落とす。 「でも……私、原因を知らないままにはできなかった。」 老人はため息をついた。 「そう言うと思ったわ。」 少し困ったように笑う。 「お前は昔からそうじゃ。気になることがあれば、自分で確かめるまで止まらん。」 少女は小さく呟く。 「じいちゃんと同じ、砂守だから。」 老人は少しだけ目を細めた。 「分かっとる。お前が、この砂漠を大切にしていることくらい。だからこそじゃ。」 老人は周囲を見る。 「こんなものに、お前を近づけたくなかった。」 そして、老人の視線が、石碑の下へ向いた。そして、動きが止まる。 「……なんじゃ、これは。」 主人公たちも振り返る。石碑の下。黒く割れた空間。そこから、今も静かに溢れ続ける黒い異常。老人の顔から血の気が引いた。 「……まさか。」 少女が不安そうに尋ねる。 「じいちゃん?」 老人は答えない。ただ、その裂け目を見つめていた。 「……伝承だけの話ではなかったのか。」 巫女が問いかける。 「ご存じなのですか?」 老人はしばらく沈黙した。そして、低い声で答える。 「……古い言い伝えじゃ。千年前、この世界には大きな災いが現れた。突然、大地に裂け目が生まれた。」 少女が息を呑む。 「裂け目……。」 老人は頷く。 「そこから現れたものによって、この砂漠も大きな被害を受けた。多くの犠牲も出たそうじゃ。」 主人公は黒い裂け目を見る。今目の前にあるものが、1000年前から続く災いと同じものなのだと感じた。 「その時、現れた者がいた。」 巫女が反応する。 「まさか、勇者様……。」 老人は頷く。 「そうじゃ。わしらに残っているのは、そこまでじゃ。名前も、姿も、どこから来たのかも分からん。ただ、その者がこの地を救い、裂け目を閉じるために印を残した。」 老人は古律の印《ノルア》を見る。 「それが、この印じゃ。」 少女は祖父を見る。 「そんな話……私、知らなかった……。」 老人は少し目を伏せた。 「話しておらんかったからな。」 「どうして?」 老人はしばらく黙った。 「本当なら……もう少し大きくなってから話すつもりだった。砂守として、この土地を守る覚悟を持った時に伝えようと思っていた。」 老人は黒い裂け目を見る。 「これは、ただの昔話ではないからな。じゃが……。最近、砂嵐が増えた。昔から知っている砂の流れとは違う、不自然なものだった。」 少女が息を止める。 「……。」 「わしの《砂読み》でも、何かがおかしいと感じていた。その先に、ただならぬ存在がいるとな。」 老人は拳を握る。 「だから、お前には言えなかった。知れば、お前は必ず調べに行く。」 少女は何も言えなかった。否定できなかった。 「この砂漠が好きで、砂守であることを誇りに思っているお前なら……きっとな。」 老人は少し寂しそうに笑う。 少女は小さく呟く。 「……じいちゃん。」 老人は少女を見る。 「すまなかった。じゃが、お前を信じていなかったわけではない。危ない目にあってほしくなかったんじゃ。」 少女はしばらく黙っていた。いつもなら、すぐに言葉を返していた。けれど、今回は違った。祖父が自分を止めていた理由。それは、砂守として認めていなかったからではない。大切に思っていたからだった。 「……ずるいよ。」 少女が小さく呟く。老人が顔を上げる。 「そんな理由なら……私、何も言えないじゃん。」 少しだけ拗ねたような声。老人は目を細める。少女は視線を逸らした。 「私……砂守だから。この土地で何が起きてるのか、知りたかった。砂漠を守りたかった。」 老人は頷く。 「分かっておる。」 少女は少し間を置く。 「……でも、心配してくれてたことも、分かった。」 その言葉に、老人は静かに笑った。 「そうか。」 主人公は少し考え込んでいた。 「その勇者って……。」 老人を見る。 「やっぱり、特別な力を持っていたんですか?」 老人は少し不思議そうな顔をした。 「特別な力?」 「いや……勇者っていうくらいだから。」 主人公は自分の手を見る。 「強い魔法とか、そういうものがあったのかなって。」 老人はゆっくり首を振った。 「わしらの伝承では、違う。その者は、魔力を持っていなかったそうじゃ。」 主人公が顔を上げる。 「……魔力が!?」 「そうじゃ。」 老人は続ける。 「もちろん、千年前のことじゃ。本当にそうだったのか、確かめる術はない。じゃが、その勇者は、特別な力があったから戦ったのではない。守りたいものがあったから、戦ったのだと伝えられておる。」 主人公は黙ってその言葉を聞いていた。 「……始めます。」 巫女の声が響いた。三人が石碑を見る。古律の印《ノルア》。弱々しかった光が、今は静かに輝いている。そして――。黒い裂け目から溢れていた黒い霧のようなものが、少しずつ薄れていく。誰も言葉を発さなかった。最後に、小さな音を立てて、裂け目は完全に消えた。地下空間に、静かな光だけが残る。少女が小さく呟く。 「……消えた。」 巫女は笑って頷いた。 「はい。ノルアは、もう大丈夫です。」 主人公は安堵して息を吐く。老人は消えた場所を静かに見つめていた。やがて、ゆっくり振り返る。 「すまなかったな。」 「え?」 「最初、お前たちをここに近づけたくなかった。」 老人は続ける。 「砂守として、わしには分かっていた。この砂漠で、何かがおかしいこと。砂嵐の向こうに、恐ろしい何かがいること。」 少女が驚く。 「じいちゃん……。」 老人は主人公たちを見る。 「だが、間違っていたようじゃ。お前たちは、この地を救った。そして、この子も。」 少女を見る。 「立派な砂守になった。」 少女は少し照れながら視線を逸らした。 「じいちゃん……。」 老人は小さく笑う。 「今日は休め。話すべきことがまだある。砂守に残る伝承のこと。そして、千年前の勇者がこの地に残したものについて。」 老人は三人を見る。 「わしの家へ来い。そこで、もう少し話をしよう。」 主人公と巫女は顔を見合わせた。災印獣ヴァルザとの戦いは終わった。しかし、1000年前から続く物語は、まだ始まったばかりだった。砂漠の夜。古律の印《ノルア》は、静かに光を放っていた。


