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翳り水月(かげりすいげつ)

V4.5+

静けさの帳が落ちる頃 宵闇の中で私は目を伏せた 男の貌を隠し 白布の下 忘れたふりの心を 結わう 飾り箱の奥にひそむ 紅の衣 静の帯 誰にも言えぬこの悦び 唇 押し当てる白磁の面(めん) 鏡の中の"わたし"が語りかける 「この姿こそ、まことの心」 手枷 足枷 鈴の音 見えぬ瞼に映る影 桃色の灯が揺れながら 秘密の祈りを捧げる夜 嗚呼 誰にも言えぬまま 繋がれし幻想(ゆめ)のなか 女の衣纏いし我が身 まどろみの奥 羽が拓く 黒き空に 瞬くまぼろし これは夢か――それとも祟りか 学び舎の教室 裸の我が身に 恥の頬 ざわめく視線が胸を裂く 逃げ出した心が 風に揺れる鈴の音となりて 赤き椿が花開く頃 気づけば袖は白と紅 肩に羽ばたく影二つ 漆黒の翼が風を切く 空翔ける我が目に映る 祠の下で震える影 我と同じ黒き羽 倒れ伏す巫女装束の子 呪を唱う神主の声 それは拒絶の言葉に似て 落つる光 闇を裂き 私はその子を抱きかかえ 風の刃に背を焦がし 遠く 山の静寂へと逃れ行く 白露を飲ませて温める 少し重たい そのまなざし やがて眼差しは 肌の奥へ 「かつての我に 似ているな」 嗚呼 黒羽の誓いとともに ふたつの鼓動が重なりゆく 女の身に宿る熱 疼きはじめる 湧き香る花 少年の息 白く脈打つ 何も語らず 身を任せたり 振るわす指 触れ合う鼓動 艶やかな色に染まる野辺 結ばれる現と夢の狭間 ああ、これは…穢れか、解放か 声が、声が重なる 打ち寄せる波の如く ひとしずくの秘められし滴が 我が身の奥 深く坩堝となる 嗚呼 明けぬ夜に恋をして このまま夢の中で 朽ちたい 少年の光を受け止めし時 われ目を覚ませり 現世の中 ただいま、わが肉体(からだ)よ されども疼く 腹の奥に 今日はまた日輪が昇る この世に身を据え 生きる定め けれど 拭えぬ永き余韻 夢の中のわたしが なおも囁く―― 「其の疼きは、呪いか、解放か…」