
最終バスの魔法
街灯が溶ける 深夜二時の停留所 吐息だけが白く 浮遊する 終電という名の 最後の船を逃して アスファルトの海 途方に暮れる やがて滑り込んだ 鈍色のノアの箱舟 扉の向こうに 君が佇む 見慣れぬ風貌 既視感の残像 矛盾が静かに 同居している ガラスに映る街 夜景が滲んで流れ 言葉を交わさず 視線だけ泳ぐ 深夜バスの魔術 時間を歪める結界 車内に漂う 非日常の粒子 「彷徨ってるの?」 唇が動いた気配 「終点まで」 喉が震えた 誰も乗らない路線 秘匿された航路 この刹那だけの 仮初めの座標 横顔が月光 溶けていくように 幻影めいて 輪郭が揺れる 「迷子なら降りちゃ 迷宮は深まるだけ」 君は微笑の形 そう告げたんだ 「最後まで辿れば 必ず見えてくるもの 探していた答え 在るべき場所へ」 不可思議な言霊 心臓に染み込んで 涙腺が熱を 帯び始めたけど 感謝を伝える間もなく次の停留所 君は夜に還る 影のように 深夜バスの呪文 今も解けない術式 空席に残る 体温の痕跡 また 手を振る姿が街灯に吸われ 光の粒子へ分解していく 誰も知らぬ路線 再現不可能な邂逅 この瞬間だけの 儚い奇跡の軌跡 言葉の破片が 胸腔で反響して 魔法めいた残滓 沈殿していく 夢と現の境界 曖昧に溶け合う中 輪郭のない記憶 確かな温度だけが 心の深層に 沈んで結晶化する 消えない灯火 灯し続ける 深夜バスの魔法 まだ効力を保って 夜明けが来るまで 持続してほしい 「恐れないで」 囁いた残響が今も 鼓膜の奥で 木霊している 誰も辿れぬ路線 繋いだ一瞬の奇跡 この瞬間だけの 脆く美しい魔術 終着点までの 孤独な行程を 独りじゃないと 錯覚させてくれた 君の正体 謎のまま霧に紛れても それでいいんだ 感謝だけ残して 魔法のような 邂逅が授けた勇気 また歩き出せる 予感がするから 終点の停留所 降り立つ黎明に 小さな灯火を 心に宿して 深夜バスの魔法 まだ効力を持って 新しい物語 紡ぎ始める

